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発明 世界変える連鎖の始点

インテカー社長 斉藤ウィリアム浩幸

新しく生まれた技術を正当に評価するのは難しいことです。近年であれば無人飛行機「ドローン」です。無人飛行機の物理的な危険性や個人情報保護の観点から言えば、運用に一定のルールが必要であることに異論はありません。

しかし「あり」か「なし」か、「0」か「100」かの極端な判断を下す社会に私は不安を感じてしまいます。現時点で有益な使い道が見つかっていないとしても、先端技術の芽を摘むことをためらわない文化風土では、イノベーションが湧き上がる可能性は薄まってしまうからです。

活版印刷のことを考えてみましょう。グーテンベルクによるこの発明は、人類に幅広く、素早く、知識を伝達する手段をもたらしました。文章を読む人間が増えた。これは活版印刷の最初の効果「プライマリーエフェクト」です。活版印刷の効果や影響はこれだけにとどまったわけではありません。

手元にある文字を読むために近視の人が増えるとどうなるか。今度は近視用の眼鏡を作るためにレンズ設計の技術が飛躍的に発展しました。レンズの発展は顕微鏡や高精度の望遠鏡の発明にもつながっていきます。結果として、グーテンベルクが意識していなかったであろう医療や宇宙開発といった分野にも二次的な効果「セカンダリーエフェクト」が波及していくことになるわけです。

たった1つの発明が世界を大きく変化させる連鎖の始点になることは珍しくありません。携帯電話もこの世に生まれたばかりのときは「こんなにバカでかくて重い電話を誰が好んで持ち歩くか」と笑われたものです。

しかし、持ち歩ける情報端末の発展は現代人がもはや手放すことのできないスマートフォンというインフラとなりました。インターネットの高速通信を世界中にあまねく行き渡らせる結果につながっていきます。ビジネスのありようも携帯電話の登場前後で大きく変わっているはずです。

斉藤ウィリアム浩幸

重要なのは、最初はどんな技術も弱く、小さな芽にすぎないということです。水や肥料や愛情を十分に与えられなければ成長しません。

やがて世間に知られる大木となり、周辺技術へと枝葉を広げて、ついには想定外の産業領域にまで影響を及ぼす巨大な森へ育つかどうか。それを予見することは、誰にもできないのです。

ドローンを「危険なおもちゃ」と見なすことは「木を見て森を見ない」例の典型のように感じます。行き過ぎた批判や規制によって、新しく生まれたばかりの業界が萎縮してしまえば、私たちは本当なら見ることのできた素晴らしい発展的未来、セカンダリーエフェクトを見逃すことになるのかもしれません。

新しい技術やサービスは、孤島で突然変異的に生まれるものではありません。あまたの失敗と成功を手本にして、改善を繰り返した努力の循環の先に、必然的に創造されるものなのです。

物ごとの負の面にばかり目を向けて批判するのは簡単です。危険ならばどうすれば危険ではなくなるのか、使い道がわからないならどう使えば面白いのか、どう改善すれば技術の枝葉が広がって、大きな豊かな森に育つのか。

せっかく議論をするなら、好意的に活用していくためのルールを話し合いたいものです。さもなければ私たちはどんな技術も芽吹かない不毛の連鎖に陥ってしまうことでしょう。

(インテカー社長 斉藤ウィリアム浩幸〈ツイッターアカウント @whsaito〉)

[日経産業新聞2015年7月10日付]

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