ラブ&ピース - 日本経済新聞
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ラブ&ピース

予測不能なファンタジー

「新宿スワン」に続く園子温監督の新作である。25年前に書いた脚本をほぼ忠実に映画化。うだつの上がらないサラリーマンの青年がロックスターになるという物語に、ペットのミドリガメとその変貌、老人とオモチャが棲(す)む地下などが絡む摩訶不思議(まかふしぎ)な世界を描いたファンタジーである。

良一(長谷川博己)はロックミュージシャンを志して挫折、今は冴(さ)えない会社員。何事にも奥手で小心者のため、職場では同僚にからかわれ、密(ひそ)かに心を寄せる裕子(麻生久美子)にはまともに口もきけない。そんなある日、一匹のミドリガメをペットにしたことから運命が変わる。

冒頭は良一の部屋のテレビに映し出される評論家(実名)の討論会。テーマは良一がいかにダメ男であるかということ。ここから映画は虚実の境目を超越して戯画化されたファンタジーであることが示される。

やがてピカドンと名付けたミドリガメの歌が大ヒットし、良一は人気ロックスターになる。一方、誤って下水に流されたミドリガメが辿りついた地下世界には老人(西田敏行)と捨てられ壊れたオモチャが暮らしている。オモチャは老人からもらった飴(あめ)をなめると話せるようになり、ミドリガメも仲間になるが……。

この地下に棲むオモチャはアニメーション手法で動き回り、童話のような世界を形成している。後半では地下から街中に逃げ出したミドリガメやオモチャが実写と合成され、さらにゴジラなど怪獣映画のように特撮を駆使して描かれていく様は、映画の持つファンタジックな特質を最大限に活用して面白い。

さまざまな手法やジャンルを混ぜ合わせ、謎を秘めながら何が飛び出してくるかわからない予測不可能な物語展開の妙味は、まさに園子温監督ならではの映画的エネルギーと魅力に溢(あふ)れていて大いに楽しめる。1時間57分。

★★★★

(映画評論家 村山 匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2015年6月26日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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