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社内起業は組織を別に 相いれない安定と挑戦

NTTドコモ執行役員 栄藤稔

「大企業の中でイノベーションを起こすにはどうしたらよいか」という題で講演を依頼されることが増えてきた。そのときに参照することが多いのがJapan Innovation Network(JIN)の紺野登代表理事ならびに西口尚宏専務理事が唱えている「経営を1階建てから2階建てにする」という提言だ。

1985年広島大院修了、松下電器産業(現パナソニック)入社。国際電気通信基礎技術研究所(ATR)や大阪大、NTTドコモのシリコンバレー拠点を経て現職。イノベーション創出を担当

既存事業で大事なのは計画の実行であり、そこには顧客対応や事業基盤の維持を伴う。ここが1階建ての部分となる。

2階建ての部分は新規事業創出の部分であり、顧客課題や技術動向に対する深い洞察を基にイノベーションのネタを探索し実験する場である。

なぜ、2階建てが必要なのだろうか。安定稼働が使命の既存事業運営とリスク挑戦の新規事業創出を同じ組織で実現するのが難しいからだ。その2つは水と油ほど求められる行動規範が違う。

この違いを説明するのに格好な逸話がある。20世紀初頭に南極点到達レースを演じたアムンゼンとスコットの話だ。「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」を著した山口周氏も好んで用いている。

スコットはエリート軍人で軍の命令を受けて南極点に向かう。アムンゼンは山師的な探検家。幼少期から探検家になる夢を持ち、その情熱から目的達成にはあらゆる手段を使う。結果はアムンゼンの勝利になるわけだが、スコットが勝てる機会は他にあったはずだ。

経営の1階部分にはスコットのような「指令を完遂するエリート」の企業文化が必要だ。一方で2階部分はどうだろう。そこにはアムンゼンのような「夢に取りつかれた情熱家」の企業文化が必要なのではないか。

イノベーションには多様な可能性の中から新しい事業のネタを探索し、それが事業性をもつかどうかを実験する作業が必要だ。成功確率を上げるために、顧客課題・市場・技術を洞察し、ネタの探索と実験を低コストで高速に回していく。

それを行うにはどうしたらよいのだろうか。様々な人の意見を集約する。この一言に尽きる。起業家と協業するか、起業家のマインドを持った組織を作るしかない。

私は仕事上、外の起業家との接点が多い。彼らの洞察力と内製能力のレベルの高さを肌で知っている。彼らは新規事業アイデアを外部コンサルタントに求めたりはしない。彼らは競争力の源泉となるシステム開発を外部業者に発注したりはしない。自分たちの競争力の核心部分を素早く手中に収めるために、その部分は全て彼らの手あかのついた内製なのである。

「社会に対する深い洞察と手あかのついたシステム」を「極地探検の経験と改良を重ねた犬そり」と言い換えると、イノベーションが得意なのは起業家マインドを持ったアムンゼン型の人材とわかる。見知らぬゴールを上司の指令で探すのと、自らの野望で見いだそうとするのとでは、結果に差がつくのは当然だ。

全ての企業は新規事業からスタートしたはずだ。多くの創業者はアムンゼン型だが、事業の発展に伴って必要な人材はスコット型にシフトする。企業の成長にとってそれは当然のことであり、いつの間にか企業文化が1階建てに染め上げられて行く。だからこそ創業期の文化を2階に再構築する必要がある。

2階に住むアムンゼンはスコットなしでは生きていけないと思っている。一方でコツコツと実績を積み上げて事業に貢献する1階のスコットからは、アムンゼンは遊んでいるように見える。

アムンゼンの片思いはスコットには通じない。1階と2階をあえて分けるのは理由はここにある。重要な人材を生かすために経営はこの区別を意識してほしい。アムンゼンとスコットはそれを待っている。

[日経産業新聞2015年6月25日付]

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