マイクロプラスチックの環境汚染 安易な使用、見直し迫る - 日本経済新聞
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マイクロプラスチックの環境汚染 安易な使用、見直し迫る

日本総合研究所理事 足達英一郎

6月8日に閉幕したG7エルマウ・サミットの首脳宣言で「マイクロプラスチック」の問題が取り上げられた。海洋ごみの約70%を占めるプラスチックゴミのうち大きさが5ミリメートルを下回ったものだ。海鳥の誤飲など物理的な障害のほか化学物質の毒性への懸念も広がっている。

これまでも海を漂うプラスチックゴミが海の生物によって誤飲・誤食される問題は指摘されてきた。例えば、海鳥の場合、消化管がプラスチックで詰まる、消化管の内部がプラスチックで傷つけられる、栄養失調の原因になるなど大きな脅威になっている。

こうした物理的な障害にとどまらず、化学物質の毒性への懸念も広がっている。プラスチックに使われる添加剤には、有害性が指摘されるものも少なくない。これらは、マイクロプラスチックになっても残留している。

さらに漂流するプラスチックからは、表面に吸着したポリ塩化ビフェニルが高い濃度で検出されるとする調査結果も出ている。プラスチックを誤飲した海鳥の脂肪に、体内で溶け出した有害化学物質が濃縮されている事例の報告は、懸念をさらに大きくしている。

特に、動物プランクトンと同程度の大きさを持った微細なマイクロプラスチックの浮遊が、世界各地の海域で確認されるようになってきている。海鳥の事例に倣えば、こうしたマイクロプラスチックに含まれる化学物質が、魚介類などに摂取され蓄積している可能性は避けられない。すなわち、問題は海の生物だけでなく、それらを口にしている我々の健康への脅威としても認識されるのである。

問題は既に日本の周辺にも及んでいる。環境省が昨年度に行った日本の沖合海域における漂流・海底ごみ実態調査では、マイクロプラスチックが一定の密度で確認されているし、沿岸域における実態調査でも密度は沖合海域より低いものの、プラスチックの製造過程で難燃剤として添加されるポリ臭化ジフェニルエーテルや、漂流中に表面に吸着したポリ塩化ビフェニルがマイクロプラスチックから比較的高い濃度で検出されたことが発表されている。

実は、マイクロプラスチックによる海洋汚染の問題は、昨年、国連環境計画から発表された「世界で新たに生じている環境問題」と題する報告書のなかにも、盛り込まれていた。このなかの記述で興味深いのは、マイクロプラスチック自体が、歯磨き粉、洗浄ジェル、顔用クレンザーなどに使われており、漂流プラスチックが劣化していくのとは別に、生活排水からもこの問題に拍車がかかっているという指摘であろう。

この報告書でも、「単なる便利さだけを追求して、安易にプラスチック容器や包装を使う生活を改めるべき」であることが述べられている。国連では、マイクロプラスチックが魚介類を食べる人間にどのような影響を与えるのかについての専門家調査を開始したところだという。

ただ、プラスチックの分解スピードを考えれば、悪影響が検証された段階でプラスチック規制に乗り出しても対策としては遅すぎるという批判も有力だ。食品、生活用品、小売りなど消費者に接する企業はもちろん、化学業界にとっても、マイクロプラスチック問題にどのような姿勢で臨むのかが問われている。

[日経産業新聞2015年6月25日付]

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