春秋
みそ汁はふるさとの味、土地土地でずいぶん違う。なかでも異色は沖縄のみそ汁だ。大きな丼にスープがなみなみと、具は野菜に卵に、缶詰のポークミートまでたっぷり入っている。つまりこれだけでちゃんと主菜になるわけだ。みそ汁定食というメニューだってある。
▼こういう料理はリゾートホテルのレストランでは出てこない。島の日常に触れるには街を歩き路線バスに乗り、食堂にでも入ればいいけれどそんな観光客は少なかろう。だから本土が抱く沖縄のイメージといえば、相変わらず亜熱帯の海と太陽なのだ。そしてもうひとつは基地問題である。「普天間」や「辺野古」である。
▼太平洋戦争の沖縄戦終結からきょうで70年になる。注目はいやが上にも高まるが、世の関心はやはり偏っていて、普通の人々の普通の暮らしには向かわないようだ。それどころか昨今では、沖縄の抱える矛盾をあれこれ難じてみせる「嫌沖」の風潮さえ一部に漂う。同じ国のなかで、ことさらに非を言い立ててどうしよう。
▼沖縄の食堂で沖縄式みそ汁などすすってみれば、この島々の存在が日本になかなかの多様性を与えているのだと気づく。それにみそ汁の具にまで使われる缶詰ポークが米軍統治の置き土産であることも知るだろう。リゾートと、基地問題とのあいだの沖縄――。固定観念を解きほぐし、さまざまなことを教える沖縄がある。