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春秋

「大日本帝国の贅沢(ぜいたく)品」。作家の三浦朱門さんは、旧制高校というものをこう言いあらわしている。なにかと窮屈な戦前の世の中にあって、ここだけは別天地だったという。若者たちは自由と自治を謳歌し、哲学や文学に親しみ、あれこれ思索を巡らせることができた。

▼旧制高校への進学者が同世代の1%しかいなかったからこそ、こういう世界は成り立ったのだろう。いずれ国をしょって立つエリートに、あえて無駄な時間を過ごさせるシステムだったともいえる。だから高等教育が大衆化した戦後は、そんな教養主義もすたれていく。いまや岩波文庫を一冊も持たぬ大学生は珍しくない。

▼文部科学省が全国の国立大に出した通知は、こうした流れを加速させるに違いない。「社会的要請」に鑑みて、教員養成系や人文社会科学系の学部などは組織の廃止・分野転換をすすめるよう求めている。すぐに役に立たない教育は要らないというわけで、旧制高校の教養主義とは対極にあろう。ずいぶん割り切った話だ。

▼空理空論をもてあそぶ授業は困るが、いかに大衆化したとはいえ実学一辺倒で大学の値打ちが保てるかどうか。教養なんかサヨナラというならこの国の未来は心もとない。あとで値打ちのわかる贅沢品より、何事もお手軽な消耗品で間に合わせる時代。ファストフード、ファストファッションの次はファスト大学だろうか。

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