中国、PM2.5減った? 環境対策で試される本気度
編集委員 安藤淳
中国から九州などに高濃度で飛来し、一時は大きな関心を集めた微小粒子状物質「PM2.5」が、今年はほとんど話題にならない。PM2.5を日本に運ぶのに適した風向きになる気圧配置の日が少ないためとみられるが、中国の空が徐々にきれいになってきているとの指摘もある。温暖化対策を含め、環境問題に力を入れる中国の本気度が試されている。

PM2.5の組成は複雑だが、石炭火力発電所の煙や車の排ガス、工場のばい煙に含まれる二酸化硫黄(SO2)、窒素酸化物(NOx)、揮発性有機化合物(VOC)などがもとになると考えられている。
2013年、北京市内がPM2.5に覆われて視界がほとんどきかなくなり、九州でも高濃度が観測されたのは、暖房用の石炭燃焼が多い冬から春にかけてだった。
静かに晴れた夜には地表近くほど気温が低くなる大気の逆転層が形成され、その下にPM2.5を含む汚染物質が閉じ込められることが多い。中国大陸南部から日本に向けて移動性高気圧が進むのに伴い、PM2.5濃度が高い空気も移動してくるとみられている。
今年の春先は「移動性高気圧が進んでくるパターンがあまり出現せず、日本にPM2.5が入りにくかったのではないか」と産業技術総合研究所の兼保直樹・上級主任研究員は指摘する。汚染物質は別の場所へ運ばれたり雨で落下したりし、日本にそれほど到達しなかった可能性がある。
中国では13年以降、ようやくPM2.5の毎時観測が本格化。現在約160カ所で観測しているが、データの蓄積は限られる。1996年から観測している北京では「年平均濃度が減少傾向にある」と清華大学のクビン・フー教授は分析する。
原因物質別では06年ごろをピークにSO2排出量の減少が目立つ。地域ごとの目標が未達の場合の懲罰的な措置が定められた効果が出たようだ。第12次5カ年計画(11~15年)で削減目標が示されているNOxも今後減少に向かうとみられる。
現在の北京、天津などのPM2.5の年平均濃度は1立方メートルあたり100マイクロ(マイクロは100万分の1)グラム程度あり、日本の環境基準の同15マイクログラムを大幅に上回る。13年に決めた大気汚染防止のための行動計画では北京の目標値を17年に同60マイクログラム、20年には同50マイクログラムとしており、30年までに全国で同35マイクログラムをめざす。

中国の環境問題に詳しい東京財団の染野憲治研究員は「13年のPM2.5事件は中国の人々の目を覚まさせ、環境問題を何とかしなければという意識を高めた」と振り返る。多くの人が皮膚感覚でPM2.5の怖さに接した。放置すれば不満の矛先が政府に向きかねないとの危機感が、新しい行動計画などにつながったようだ。
環境政策重視の姿勢は温暖化問題への対応にも表れている。昨年、中国の習近平国家主席は30年ごろをピークに二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすと表明したが、「もっと早くピークを過ぎるのではないか」(染野研究員)。年末にかけての国際交渉をリードしようという狙いもみえる。
中国はPM2.5や温暖化の対策を産業構造の転換と連動させ、国際競争力の向上につなげたい意向だ。観測データの蓄積、大気汚染物質の拡散予測、排出削減技術の普及、産業界の自主的ルール作りなどでは日本のノウハウ活用にも期待を示す。地球規模の環境対策の推進に役立ち、双方の利益になるよう上手に連携する工夫が必要だ。
[日経産業新聞2015年6月11日付]