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石油で汚れた工場跡地 芝の力で土をきれいに

 「ファイトレメディエーション」という言葉を聞いたことがあるだろうか。ファイトはギリシャ語で植物、レメディエーションはラテン語由来の言葉で修復を意味し、植物の力で汚染物質を低減・除去する技術だ。住友林業とJX日鉱日石エネルギーの2社はこの技術で低コストで手間のかからない土壌浄化手法を共同で確立した。その現場を取材した。
油分で汚染された区域に芝を植える(広島市)

広島市にあるJXエネ広島油槽所の跡地。砂利敷きの更地の中に芝が敷き詰められた区画が3カ所(計約300平方メートル)ある。草丈10~15センチメートルほどの芝の間から雑草も生えているが、芝はしっかり根付き、風に揺れている。どこにでもある芝生に見えるが、これが土壌を浄化しているのだ。

「順調に進んでいます」。JXエネ社会環境グループの家田裕シニアスタッフは説明する。芝が植えられている場所は油分濃度が高く、以前は土を掘ると油の臭いがしたり、油膜がにじんだりした。2012年に芝を植えてから徐々に臭いや油膜が少なくなった。

3区画のうち2区画は浄化が終わった。残りの1区画も臭いや油膜はほとんどなくなり、油分濃度も自社で定めた基準値に近づいている。来年には完了し、大規模太陽光発電所(メガソーラー)を建設する予定だ。

新品種を開発

芝の品種は「バーニングフィールド」。地下に1メートルほど伸びる根から、たんぱく質や糖、アミノ酸などの栄養分が分泌される。土中にいる「根圏微生物」が増殖し、油分を無害な低分子化合物に分解する。浄化できるのはガソリンや灯油、軽油、重油などだ。

広島を含むJXエネの油槽所跡地や給油所跡地など計9カ所(約6千平方メートル)に10年以降、芝を植えて浄化を進めてきた。そのなかには東日本大震災の津波により油で汚染された場所も含まれている。これまでに3カ所で浄化を終えた。

取り組みの発端は08年にさかのぼる。JXエネが住友林業に共同研究を持ちかけたのだ。

当時は、重機を使って掘削したり、過酸化水素などで油を分解したりする方法を採っていた。ただコストが割高だった。業界再編による油槽所の閉鎖が予想されていたこともあり、浄化コスト低減が急務だった。

住友林業には木や植物の力で自然環境を修復してきた歴史がある。

住友グループ発祥の地である別子銅山(愛媛県新居浜市)で江戸時代に薪炭や木材を調達するために山林を経営したのが住友林業の源流だ。伐採と煙害で山が荒廃した反省から明治時代に植林を始め、緑をよみがえらせた。

ファイトレメディエーションについても研究しており、どのような植物を使うのかをJXエネと検討した。

樹木類は根が均一に広がらない。西洋芝は土が硬く油分濃度が高いと発芽しない恐れがある。草丈も1メートル以上で景観問題が生じるほか、枯れ草の処理が要る。汚染物質を吸着する植物は葉が風で周囲に飛散してしまう危険性がある。

候補が浮かんでは消えるなかで行き着いたのが住友林業が千葉大学と開発していた芝の新品種バーニングフィールドだ。

手入れ不要

油分濃度が高い土地でも育つうえ、乾燥に強く水やりの必要がない。効果は何年も続き、植え替えなくてよい。草丈も約15センチメートルと低く手入れが要らない。コストは掘削除去の10分の1程度に抑えられる。JXエネの土壌汚染対策の関連費用は現在、年間約20億円に達しており、削減効果に期待している。

住友林業子会社の住友林業緑化(東京・中野)環境緑化事業部の日下部友昭チームマネジャーは「植物で合理的に油を浄化できるのは現時点でバーニングフィールドくらいではないか」と語る。

もちろん万能ではない。浄化まで1年から数年かかる。重金属を含む土壌に対しては別の浄化手法が必要だ。

だが、すぐに使用する予定がなく油で汚れた土地にはもってこいだ。バーニングフィールドによる浄化手法は2社で特許を出願中で、近く九州大学で開かれる研究集会で成果を発表する。

バーニングフィールドを使った浄化手法は住友林業が中心となり企業や廃業が相次ぐ給油所の経営者らに提案する。すでにアスファルトメーカーから工場跡地で使いたいとの引き合いもある。

受注が増えれば芝の生産量も増え、単位あたりの生産コストを下げられる。国内だけでなく、海外にも売り込むチャンスが広がってくる。

汚染対策の市場拡大

一般社団法人・土壌環境センター(東京・千代田)によると、土壌汚染対策を手がける会員企業の受注高は2013年度時点で前年度比24%増の1098億円だった。土壌汚染対策法の施行で盛り上がった後に景気後退で低迷したが、再開発の活発化で持ち直している。足元も堅調のようだ。

大成建設などは塩素化エチレンで汚染された地下水を細菌を使って短期間で浄化する技術を開発した。国の指針への適合確認も受け、実用化を急ぐ。こうした新手法の普及には徹底した低コスト化と使い勝手の向上が鍵となる。

(大林広樹)

[日経産業新聞2015年6月5日付]

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