記事に溶け込む「ネイティブ広告」 正しい理解・ルール遵守を
(徳力基彦)
「ネイティブ広告」という言葉を聞いたことはあるだろうか。ネイティブ広告とは、ユーザーがウェブサービスやアプリなどを利用している際に、「ユーザーの情報利用体験を妨げない広告」のこと。

これまでインターネットのバナー広告では、ユーザーの情報利用体験を妨げる形で無理やりノイズとして表示されることが多かったのに対し、これからのネット広告はユーザーの情報利用体験を妨げない「ネイティブ」な形で提供されるべきだという考えだ。
もともと米国で市場が広がったのをきっかけに、日本でも2年ほど前から注目されてきた。だが、日本市場に普及していく過程で「ネイティブ広告は、広告に見えない広告であるべきなのだから、広告としての明示をする必要はない」と誤解した人が多数存在し、様々な物議を巻き起こす結果となった。
こうした中、日本のインターネット広告推進協議会(JIAA)が3月に「ネイティブ広告に関おける推奨規定」を策定した。ネイティブ広告の信頼性を確立するため推奨規定に示された原則に従って、広告表記や広告主体者を明示するよう求めた。米国においても、米国のネット広告に関する協議会が制作した「ネイティブアド・プレイブック」に広告明示の必要性が明確に書かれている。
だが、この1年ほどの日本におけるネイティブ広告の黎明(れいめい)期に一部で広まった誤解の根は深い。いまだにネイティブ広告はいわゆるステマ(ステルスマーケティング)と呼ばれる広告であることを明示しない、新しいやらせ手法だと思い込んでいる人も少なくないようだ。
実際、5月にサイバーエージェントグループにおいて、ネイティブ広告において広告と言うことが分かるようにクレジット表記していない広告を取り扱っていたケースが判明した。同社から謝罪のリリースが出される事態となった。ユーザーの視点に立てば、ネイティブ広告に対する信頼は現在、最も低い状態にあるのかもしれない。
ただ一方で、今回のサイバーエージェントグループのように、広告のクレジットが表記されていなかったネイティブ広告を販売したことで謝罪に追い込まれるケースが出たことは評価できる。JIAAが明確にガイドラインを定めたからこその結果だろう。

これまでも広告のクレジット表示がされていない「ノンクレジット広告手法」はあった。業界の一部で「問題ではないか」という議論はされていたが、グレーゾーンとされ、表だって問題提起されることは少なかった。広告代理店が謝罪リリースを出すことなど考えられなかった。
今回ガイドラインが明確に定められたことで、ネイティブ広告の広告表記について言葉のあやで誤解していた人も、確信犯としてネイティブ広告における広告表記を避けていた人も、言い訳は許されない状態になった。
読者や視聴者の保護のために、広告が広告として明示されるべきだというのは今も昔も変わらないメディアや広告主が守るべき当然のルールだ。ネイティブ広告だろうが、ネイティブでない広告だろうが、ルールのあるべき姿は変わらない。
先日、日本でネット広告費が初めて1兆円を超えたことが話題になったが、米国の調査では2016年にネイティブ広告だけで1兆円超といわれ注目度は高い。ネイティブ広告が正しく理解されることが望まれる。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
〔日経MJ2015年6月5日付〕