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シリコンバレーはボランティア精神で助け合う世界

校條 浩(ハックベンチャーズ マネージング・パートナー)

今春に安倍晋三首相がサンフランシスコ、シリコンバレーを訪れた。主な目的はイノベーション振興の視察であり、現地の日本人や日本に関係の深い実業家などが熱狂的に総理を迎えた。ホテルで晩さん会が催され、私のほかにも現地の知人、友人が多く招待され、その共通点に気がついた。それはコミュニティーに貢献する活動をしている人ということだ。自分の仕事や経験を生かしながら、直接の利益に関係なくボランティア活動を続けている。例えば、若い起業家へ助言し、日本からの訪問者にアドバイスし、日米のかけ橋として現地の米国人と交流イベントを催している。

晩さん会の司会は、現地で女性起業家を育成する日本人の女性だった。総理との朝食会を企画したのも、普段から惜しみなくコミュニティーに貢献しようとする日本人ビジネスマンだ。彼は、自分自身がベンチャー企業を立ち上げた時に日本人同士の交流がなかったことからネットワークを立ち上げ、最初の1年は専任で頑張った。今ではシリコンバレーの日本人コミュニティーで中心的な存在だ。

生き馬の目を抜くような厳しいシリコンバレーで生き抜く人たちは、実はコミュニティーに協力することで、逆にコミュニティーの一員として助けられている。米国人の私の仲間が始めたベンチャー・キャピタル(VC)は、現在米国の最も先端を行くネット系の起業家や投資家と広いネットワークを持っている。このVCの中心的人物はビッグデータの専門家だったが、ビッグデータの黎明(れいめい)期に多くのネット系の起業家たちに惜しみなく専門知識を提供してアドバイスしたことにより絶大な信頼を得た。

シリコンバレーはもともと互助の精神が旺盛な土地柄だ。インターネットの普及が始まったばかりのころ、ボランティアが集まりスマートバレー公社が設立された。ブロードバンドネットワークの整備を促し、地域の産業振興や生活向上を目指した。例えば、シリコンバレーのエンジニアと協力して週末に小中学校を訪れ、ブロードバンド配線の活動を展開した。

そんな中、「シリコンバレーは暮らしにくく非人間的な場所である。会社は簡単にクビになり、残業手当などの類は皆無。そんなリスクの高いところに行くのはおよしなさい」と大人に諭されたという日本の高校生の投稿がネットで話題になった。それに対して、シリコンバレーでエンジニアとして頑張っている若い日本人は「確かに問題点も多く、働いていてうんざりするようなこともありますが、それでも『コミュニティーに貢献したい』という人にとっては素晴らしい環境です。ボランティア精神の豊富な技術者が、世界で一番輝き、かつ幸せに暮らせているのはシリコンバレーだと断言していいでしょう」と答えた。こんなことを断言できる若者が一体どのくらいいるだろうか。

実はボランティア精神で助けあうコミュニティーが日本にもある。それは農業だ。地域で農機を共用し、ノウハウを共有し、農繁期には応援に出かける。それを仕組みにしたのが農協の由来だ。しかし、ほとんどのコミュニティーが企業や団体という壁の中に閉じ込められてしまった。オープンイノベーションもまずはオープンコミュニティーから始まる。組織の壁を越えてダイナミックなコミュニティーを作ろう。

[日経産業新聞2015年6月2日付]

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