タイヤ売らないブリヂストン、再生ビジネスで稼ぐ
大阪市住之江区。工場や倉庫などが立ち並ぶ地域の一角にブリヂストンのタイヤリサイクルセンターがある。センターには使用済みタイヤが次々と運ばれてくる。作業員は手慣れた様子でタイヤ表面のゴム(トレッド)を削り、その上に新しいゴムをはり替える。これがリトレッドだ。

タイヤの基礎部分を再利用するので資源の使用量を約7割減らせる。同センターでは年に3万本超のタイヤをリトレッドしている。センター長の古谷徳美氏は「使用済みタイヤの傷み具合は千差万別。新品同然に再生できるかが腕の見せどころ」と胸を張る。
新品を年単位で貸し、メンテナンス請け負う
もちろん「環境に優しい」だけではビジネスにならない。そこで登場するのがTPPだ。最大の特徴はタイヤを売らないこと。新品のタイヤを提供するが、所有権はブリヂストンに残る。貸し出しという位置づけだ。
契約は物流会社のニーズに応じて年単位で結ぶ。すり減ったときのリトレッドのほか、交換やトルクの締め付け、空気圧の管理など、運用・維持に必要な作業はブリヂストンが担う。
TPPでは料金設定が重要になる。どのような荷物を運ぶのか。高速道路を走るのか、一般道がメーンなのか。1年の走行距離はどれだけか、雪道を走ることはあるか――。タイヤの使用条件を検証し、メンテナンスの頻度やリトレッドのタイミングなどを割り出し、料金を決める。
これまで物流会社はタイヤをどう管理していたのか。「営業所ごとに予算を立てていた。交換の判断も所長の好みでバラツキがあった」。ワーレックス(栃木県小山市)の三谷昌司社長はTPP導入前の状況を語る。
TPPでは、タイヤの状態について全車両ごとに調査し、物流会社に報告する。燃費を向上させるような運転の仕方なども助言する。「タイヤの管理を本社でできるようになった」(三谷社長)
サービスが含まれるのでタイヤを購入するときよりブリヂストンに払うお金は増えるが、管理費用低減で補えると判断した。整備不良による事故を減らせる利点もある。
ワーレックスのトラックは10トンを超える鉄鋼コイルを運ぶこともある。タイヤの摩耗は激しく、何度も新品に買い替えていた。TPPではリトレッドを使うので新品にする頻度は減る。「(契約期間全体で見れば)コスト面でも効果が出てくるだろう」(三谷社長)
日本自動車タイヤ協会(東京・港)によると、14年に国内で売れた市販用トラック・バス向けタイヤは約1990万本。直近のピークである06年の約2010万本には及ばない。トラック・バス向けのタイヤは国内の市販市場の約3割。ブリヂストンは自社の内訳を開示していないが、似たような状況とみられる。

顧客を囲い込み価格競争から脱却
市場拡大が見込めない状況でタイヤを売るだけでは、値下げを余儀なくされる。長期間の契約で顧客を囲い込めれば、タイヤの販売本数は減るが、価格競争からの脱却につながる。サービスを軸にしたTPPの意義はここにある。
ブリヂストンは00年代半ばからリトレッドタイヤの販売を広げてきた。当初はタイヤとメンテナンスを別々に提供する場合が多かった。
リトレッドタイヤの供給には使用済みタイヤの回収が欠かせない。リトレッドタイヤの認知度が上がって需要が拡大、メンテナンスを組み合わせてタイヤを提供するTPPの必要性が高まった。
07年にリトレッド関連で高い技術を持っていた米バンダグ社を買収。国内13拠点のリトレッド工場を整え、13年1月にはTPPの営業を統括する部門を設けた。
TPPの14年12月末時点の契約件数は270社の1万台。3年後には契約数を500~600社、車両数で5万台という水準を目指す。
ブリヂストンの津谷正明・最高経営責任者(CEO)は「断トツであり続けるには顧客の役に立つソリューションを提供できるかが問われる」と訴えてきた。TPPはその言葉を象徴する事業でもある。
(藤村広平)
[日経産業新聞2015年6月1日付]