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環境でもリード 米アップルに見る21世紀型企業

林 信行(ITジャーナリスト/コンサルタント)

最近、ファッションの世界では、環境や倫理問題に配慮した「エシカルファッション」「エシカルジュエリー」といった商品が注目を集めている。米アップルも4月、「エシカルIT(情報技術)」と呼びたくなるような取り組みを一斉に発表し、世界を驚かせた。iPhone(アイフォーン)や腕時計型ウエアラブル端末「アップルウオッチ」など同社の製品のパッケージの多くは紙で作られている。このパッケージの製造によって森林が失われないように、広範囲の森林を購入し、環境保護団体とともにその保護と造成に取り組み始めた。

はやし・のぶゆき 最新の技術が生活や文化に与える影響を25年にわたり取材。マイクロソフトやグーグルのサイトで連載を執筆したほか、海外メディアに日本の技術文化を紹介している。東京都出身。

アップルはクラウド事業などに供給する電力を補うために、オレゴン州で水力発電事業を開始した。さらにそれではまかなえない本社や直営店の電力を補てんするために、中国にメガソーラー(大規模太陽光発電所)の建造を始めたという。製品の消費電力などを計る「エナジースター」という環境基準がある。アップルの製品はすべてその基準をはるかに超える水準でつくられている。

最近では製品の製造に用いる部品点数を減らしたデザインで、より長持ちする製品づくりにも取り組む。廃水を再利用可能な水にする「クリーンウォータープログラム」を推進する活動にも熱心で、紛争地帯で採掘する鉱物資源の使用も取りやめている。

このように素材選びから製品の製造工程、梱包まで多面的な環境対策をみていくと、大量生産・大量消費の20世紀を脱し、21世紀型企業を創造しようという意気込みすら感じる。環境保護団体のグリーンピースもアップルの取り組みを極めて高く評価する。

ちなみにアップルの21世紀社会に対する心意気でもう1つ感じられるのが、スティーブ・ジョブズ氏が最後に手がけたプロジェクトでもある新社屋だろう。2016年に完成予定といわれ、1万4千人の従業員が働くことになる円盤型の新社屋は英国が誇る世界的建築家、ノーマン・フォスター卿のデザインだ。標準的な研究開発用オフィスより30%エネルギー消費が少なく、消費するエネルギーのすべてを再生可能エネルギーで賄う。

自然光をふんだんに取り入れたガラスの建物だが、緑いっぱいの屋外でも仕事ができるようにデザインされており、大規模なスポーツジムも用意され、社屋周辺の自動車などの流れも丁寧にデザインされている。ちなみに従業員の車を止める駐車場はすべて地下に隠し、敷地の80%近くは7千本以上の樹木が植えてあるオープンスペースになるという。

アップルと競って環境に良い事業の運用を目指しているグーグルも、マウンテンビュー市に1万5千人の従業員が通い、地域の自然ともコミュニティーとも共生していく新社屋案を提案していた。最終的には市議会で認められなかったが、建築は異なる建築事務所が手掛けて、自動運転車など常に変わっていく社会ニーズに合わせて簡単に組み替えることが可能な建物になるといった大胆な案だった。

今やアップルの時価総額は世界一で、アイフォーンだけでも年間2億台以上を出荷する。さらに事業を営む上で必要となるエネルギーを自前で調達し、自然と共生する環境や次の時代にあわせて柔軟に変化する建物の仕掛けなども手に入れた。既成の建物で、既成のエネルギーを消費して戦うその他の企業との差は埋められないほど大きくなっている。

[日経産業新聞2015年5月26日付]

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