米大学、進むオンライン・コース 学位も取れる、世界にPR
瀧口 範子(フリーランス・ジャーナリスト)
米国の大学がこぞってオンライン・コースの提供に力を入れている。オンライン・コースと言えば日本でよく知られているのはEdx(エデックス)やコーセラといった、いわゆるMOOC(ムーク)だろう。

MOOCとは不特定多数の人々がオンラインで勉強できるよう、米国を中心とした世界の大学が講義をアップロードしているもの。マサチューセッツ工科大やハーバード大、スタンフォード大など有名校の授業が無料で受講できるとあって、注目を集めている。講義を提供する大学もかなり増えてきた。
だが今、大学が力を入れているのはMOOCだけではない。大学自らが単位や学位が取れるように制作したオンライン・コースが増えている。
たとえば、ペンシルべニア州立大は「ワールド・キャンパス」と銘打って、オンラインだけで学士号が取得できるコースを設置している。看護学、生物学技師、農業経営などの専攻がある。
オンラインとはいえ授業についていかなければならず、テストも学生指導もある。指導するのはキャンパスで教える同じ教授らで、学生間のディスカッションもある。最後にはキャリア・アドバイスも受けられるというフルパッケージだ。
同校は大学院レベルのコンピューター科学や教育、エンジニアリング、そしてMBA(経営学修士号)のオンライン・コースも提供しており、キャンパスの授業と同じぐらいオンラインに力を入れている。
MOOCならば講義をビデオで収めただけのものも多いが、同校の場合、制作にプロを雇っている。その成果もあり、「USニューズ&ワールド・リポート」誌はオンライン・プログラムの分野で同校を1位にランキングしている。大学や病院ランキングでよく知られる同誌がオンライン・プログラムを評価し始めたこと自体、その重要度が推し量れる。
オンライン・コースは今や世界から学生を集めるのに大切な役割を果たしているようだ。これまでも、各大学は魅力的な教授陣やキャンパス環境をアピールして学生集めに必死だった。オンライン・コースとなると世界の学生が対象だ。

内容の充実度、指導の丁寧さ、値段、単位・学位の授与などが、学生にとっての決め手になる。
ハーバード大やスタンフォード大といった、従来の名門校とは異なる大学がランキング上位に入っているのも興味深い。
オンラインならではのユニークな取り組みもある。アリゾナ州立大はコーヒーチェーンのスターバックスと提携し、同社の社員が同校のオンライン・コースで同校の学位を取得できるようにした。費用は会社持ちだ。
また、同大は今夏からMOOCを学位に結びつける。MOOCでもコースを全部終了すると修了書が与えられる場合もあるが、就職の際に正式な修学の証明にならない。
これに対し、アリゾナ州立大では無料で公開されているMOOCを全部受講して完了すると、授業料を払って単位を取得できるようになる。MOOCは勉強よりも趣味で受講する人々が多いため、コースを完了する率も低いが、単位が取れるとなれば話は別だろう。
最近は2年制のコミュニティー・カレッジでもオンライン・コースが盛んに作られている。勉強や学位、就職・転職、趣味、あるいは頭をリフッシュするため。オンライン・コースはさまざまな目的に使えるようになっている。
[日経MJ2015年5月25日付]