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春秋

すむという言葉は万葉の昔からあるそうだ。ひと所に落ち着く、とどまるという意味がある。家に住む、鳥が木に棲(す)む、濁りが去って水が澄む、などと使うようになった。目をつぶり、耳をすます。すると頭がしいんとして、いろんな音が、鮮やかな映像を結び始める。

▼谷川俊太郎さんに「みみをすます」という壮大な詩がある。雨だれや人々の足音に集中するうち、はるか昔の自分の産声や母の子守歌、父の心拍を感じる。千年、一万年前のひとの息づかいを思い、やがて、宇宙の始まりの「とどろき」に遡る。未来の小川のせせらぎも流れ込んでくる。音が世界をいきいきと感じさせる。

▼そこまで大規模でなくても、音は暮らしを見せてくれる。幸田文の短編に出てくる料理人は病床で、妻が立った「台所のおと」を追う。菜を洗ってもふきんを濯(すす)いでも、水は氷のかけらのように鳴る。触れあった食器が調子の高い音をたてる。仕事ぶりが手に取るようにわかる。ひとがそれぞれ持つ命の響きかもしれない。

▼その命の音でお年寄りの安否を見守るシステムを富士通が開発した。声や動きに伴う生活音を分析して、異常がないかを教えてくれる。遠方で一人で暮らす親の様子を気遣うのにも役立つという。機械頼みでは、少しさびしい気もするが、思う気持ちは込められる。人間が追えない、かすかな兆しに最新技術が耳をすます。

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