石炭火力のCO2抑制 貯留に頼らぬ技術必要
編集委員 久保田啓介
国内で石炭火力発電所の新設計画が相次ぎ、温暖化ガスの二酸化炭素(CO2)の排出増加が懸念されている。対策として大量のCO2を地下に貯留する研究が進むが、コスト面などで多くの課題を抱える。貯留だけに頼らずに、現実的な手法でCO2を減らす対策の積み上げが急務だ。

石炭火力の新設計画は全国で40件を超え、合計出力は2千万キロワット超、原子力発電所20基分に当たる。電力市場の自由化に伴い発電コストの安い石炭火力が注目され、電力各社や新規事業者の計画が相次いでいる。
一方で、石炭火力は最新鋭の天然ガス火力に比べ約2倍、石油火力の1.3倍のCO2を出す。石炭を燃やすと有害な硫黄酸化物(SOx)が生じ、それを取り除く脱硫工程からも大量のCO2が生じる。
「まず脱硫のCO2排出をゼロにする」を目標に技術開発に取り組んでいるのがベンチャー企業のべんがらテクノラボ(川崎市、堀石七生代表)。堀石氏は戸田工業役員や岡山大学客員教授などを務め、製鉄で生じる有害ガスを抑える研究に携わった後、2010年に同社を設立した。
石炭火力の多くは脱硫に石灰石(炭酸カルシウム)を使っている。石灰石がSOxと反応すると、石こう(硫酸カルシウム)ができる。石こうは建築用のボード向けなどに需要があり、電力会社は発電の副産物として販売している。
だがこの工程では同時にCO2も排出する。その量は軽視できず、石炭火力からのCO2排出量の1~2割を占める。
べんがらテクノラボが注目したのは、グランドに引く白線などでおなじみの消石灰だ。
消石灰もCO2を吸収し、石灰石になる。脱硫で生じたCO2をまず消石灰に吸収させ、そこでできた石灰石を再び脱硫工程に回して使う。CO2の循環サイクルが出来上がり、外部に放出せずにすむ。副産物の石こうも生産でき、文字通り一石二鳥になる。
同社は協力企業と共同で特許を出願。基本技術は11年、関連特許も今年3月に成立した。「化学反応自体はよく知られているが、誰も取り組んでおらずコロンブスの卵のようなもの」と堀石氏は話す。
現在、同社は実用に近い規模の装置で性能や経済性などのデータを集めている。「既存技術を転用できるためコストが安く、既存の発電所にも適用できる」(堀石氏)。この方法をさらに進め、カセイソーダを使って石炭の燃焼で生じるCO2を吸収する研究にも取り組んでいる。
火力発電のCO2対策では、CO2を地下に封じ込める回収・貯留(CCS)が本命とされてきた。欧州などで大規模な実験が進み、日本でも官民挙げた実証試験が北海道苫小牧沖で計画されている。
だがCO2を地下深くに長期間、安定して封じ込めておけるかや、高圧で注入して地震を引き起こす恐れはないかなど、未解決の課題は多い。コスト面でも現状ではCO21トンあたり数千円以上かかるとみられ、温暖化ガスの排出量取引などが広がっても採算ベースに乗るかは未知数だ。
CCSの実用化までまだ年月がかかるとみられる一方、計画中の石炭火力は5~10年後には稼働する。それまでに低コストのCO2対策技術を用意しておけるか。政府が支援を強めるなどして、技術開発を急ぐ必要がある。
[日経産業新聞2015年5月14日付]