「縦撮り動画」のサイト続々 スマホらしさで親近感
(徳力基彦)
最近まで動画やビデオと言えば横長サイズが常識だったが、今この常識が少しずつ変わろうとしている。

変化の主導権を握っているのはスマートフォン(スマホ)。そもそも大半のスマホは縦に使う前提で設計されている。そのため、写真だけでなく動画も縦のままで撮る人が実は多い。
ただ、縦撮り動画はこれまでネット上でも批判されることが多かった。グーグルが昨年公開したアプリ「グーグルカメラ」では縦撮り撮影すると、向きを変えるよう警告表示が出るほどだ。
従来の動画はテレビやパソコンなど横長の画面で見る。You Tubeやニコニコ動画などのオンライン動画共有サービスも横長での再生を前提としており、「縦撮りは邪道」と考えている人はプロほど多い。
ただスマホの普及で明らかに潮目が変わり始めている。昔は動画撮影はビデオカメラを持っている人しかできなかった。大半のユーザーは単なる視聴者にすぎず、一部のプロやセミプロが動画を作成するという構図だった。
それがスマホ1台で簡単に動画撮影ができる今は、誰もがライブ配信者になるポテンシャルを秘めている。普通の人は、動画は横撮りで撮るべきだという常識を気にせずに縦撮りで撮る。
米国ではツイッターが3月に開始した「periscope」「meerkat」というライブ中継サービスが大きな注目を集めている。スマホ1台で誰でもライブ中継ができるもので、日本では「ツイキャス」というサービスが既に1千万ユーザーを集めている。
特に注目なのが、米国の2つのサービスが縦撮りを前提とした設計になっていること。個人がライブ中継する場合はツイッターやフェイスブックの投稿からユーザーを集めることが多いが、これらのサービスは縦での利用を前提にしている。

従来の横長動画では、通常の縦画面のスマホで表示すると狭い横幅に合わせて小さい動画として表示されていた。ユーザーは動画を大きい画面で見るために毎回スマホの向きを変える必要があった。そのため「instagram」や「vine」などは動画を正方形にカットし、縦でも横でも違和感の無い動画にしてきた。
だが最新のライブ中継サービスでは、スマホ利用者が縦で使っているのだから、最初から動画もアプリも縦撮りを前提にすれば良いのではないかと提案している。
この流れに並行する形で、元LINE社長の森川亮氏が立ち上げて注目されている動画メディアが「C Channel」だ。女性向けにファッションやヘアメイクなどの1分程度の動画を縦長の動画で配信している。縦長だと全身を大きく撮れるためファッションを見せやすい。なぜか、プライベートな動画に見えやすく視聴者が親しみを持ちやすいという心理的な効果もあるようだ。
10代はテレビよりもスマホの方が接触時間が長いという調査結果もある。世界で最も普及し、最も身近にあり、最も長時間眺めるのは「縦長」の画面という世界が到来しつつある。動画のプロは縦撮り動画を素人の撮影ミスと笑い飛ばしがちだが、この先、縦撮りが常識になるかもしれないと受け止めた方がよさそうだ。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
〔日経MJ2015年5月8日付〕