/

シリコンバレー駐在がムダに終わる3つの悪弊

校條 浩(ハックベンチャーズ マネージング・パートナー)

日本企業の間でシリコンバレーが注目され、新規事業創造の参考にするのは大変よいことだ。しかし、シリコンバレーで20年以上活動してきた私には心配がある。せっかく駐在員を投入するのに、結果が出ないことが今まで多かったからだ。まずは、その原因を理解しよう。

コンテクストを理解し、集めた情報の意味づけを

1つ目は成功の定義があいまいであることだ。シリコンバレーで情報収集していれば何か素晴らしい事業案件が見つかるのではないか、という漠然とした目標では出口が見えない。目標の事業規模や時間軸などによって駐在員事務所の業務内容が変わるし、人選も変わるはずだ。あるメーカーでは新規事業探索の目的で研究所の技術者を派遣したが、新規事業よりも技術的な興味から情報を集めるばかりで、結局は研究所が依頼した項目についての調査にとどまってしまった。別のメーカーは既存事業を破壊するような新しい技術トレンドを追い、新規事業の種を取り込もうとしているが、予算を多く持つ既存事業部門のサポートが得られず孤立した。

2つ目は情報収集の思い違いだ。シリコンバレーに進出する駐在事務所の多くは、その目的を情報収集としている。しかし、情報をいくらたくさん集めても、自分自身に能動的なイメージがないと意味を読み取ることは難しい。日本にいてもニュースメディアからベンチャー情報は入手できる。シリコンバレーにいないと分からないのは、コンテクスト(文脈)だ。身の回りのあらゆる情報がコンテクストを理解する土台となる。コンテクストが理解できると、新たなベンチャーの情報を見た時に意味づけをすることができる。

あるIT(情報技術)企業がシリコンバレーに事務所を構えた。すぐに新事業のネタが欲しいということだったが、最初は「ベンチャー情報はニュースメディアで読んで分かっている」ということで分析に力を入れなかった。しかし、それぞれのベンチャー企業の裏にある事情や試行錯誤の過程まで深掘りして議論を進めたところ、ベンチャー企業のコンテクスト理解の重要性に気がついた。それからは、自らたくさんのベンチャー企業の分析を進めるようになり、企業の位置付けが理解できるようになった。このような地道な作業を進めるうちに自分たちの求める事業分野が明確になり、対象分野のベンチャー企業を発掘。提携して事業を始めた。

経営幹部自らが勉強して知識を身につける

最後は経営トップ・幹部のビジョンだ。前述のように、成功の定義が不明確だと、情報収集が目的になってしまう。成功の出口をイメージするために、経営幹部自らが勉強して知識を身につける。シリコンバレーまで赴き、現場の空気を吸い、トップから仮説やビジョンを提示する努力が必要だ。

日本のある中堅メーカーは現在の主力商品が陳腐化する前に次の製品群を創造したいと考えている。中堅社員が出張ベースでシリコンバレーに滞在し、自社技術の売り込みを軸にベンチャー企業に接触しながら、次の事業のネタを探している。その後、毎月のように経営トップがシリコンバレーを訪問し、直接ベンチャー企業と接触して議論を重ねている。経営トップのビジョンが見えるので、シリコンバレーのベンチャー企業の反応は上々と聞く。以上の3つの原因を理解することにより、個々の企業のシリコンバレー利用の仕方が明確になるはずだ。未来を担うこれからの経営者に期待したい。

[日経産業新聞2015年4月21日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン