IoTで変わるユーザー体験 求められる文系感性
石黒不二代ネットイヤーグループ社長

2015/4/11 6:30
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あらゆるチャネルで消費者が情報を取得したり、商品を購買したりすることができるオムニチャネル時代のユーザーエクスペリエンス(UX)をもう一歩進めて、今回は「インターネット・オブ・シングス(IoT)」時代のUXについて考えてみたい。UXとは日本語で利用者体験、IoTはあらゆるモノをインターネットにつなぐという意味だ。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

1994年にスタンフォード大学経営大学院を修了、シリコンバレーでコンサルティング会社を起業。2000年から現職。

オムニチャネル時代では、チャネル横断型のUXを設計することが求められる。ウェブサイトだけで完結するような購買体験はむしろ少ないため、サイトデザインだけを最適化すればよいという考え方は成立しなくなる。

情報取得と購買というUXに対して、利用するメディア(デバイス)も異なるし、時間的な差異もあるゆえに、チャネルごとのゴール設定になる。しかし、IoTが実現したらどうなるのだろうか。

欧米を中心に「ビーコン」と呼ばれる無線を使ったサービスが普及している。99ドルで3個の無線端末を提供する会社も登場し、例えば、店のドアにその端末を設置しておくと、利用者が通るたびにクーポンを出すことができる。

接客する人を待たなくても注文が可能で、決済もこの端末を通してできる。このIoTが提供される前のオムニチャネルの体験と異なるのは、店舗側が提供する無線端末を通した体験(インプット)と利用者側のアプリを使った体験(アウトプット)がリアルタイムで共存しているということだ。

時間的差異がなくなるということは、利用者が体験をすぐに消費してくれるという利点がある。その一方でサービス提供者は大量のデータを管理しながらも利用者が必要とするデータだけを取捨選択する、つまり、情報のキュレーションが必要になる。

キュレーションのもととなるデータの量も種類も豊富になるため、その編集作業が必要だ。ただ、ユーザーはスマートフォン(スマホ)やウェブだけでなくウエアラブルなど複数の異なるデバイスを使用する。時間差はそれほどないとはいえ、それらを同時に使うのか、連続的に使うのか、あるいは多少なりとも非連続的に使うのかなどアウトプットのイメージが複雑になる。

ユーザーインターフェースの概念も現在の入力やタッチとは異なってくる。このためIoT時代のUXを設計するにあたっては、2つの飛躍が求められる。1つは技術だ。大量のデータからリアルタイムでカスタマイズされた情報をユーザーに提供できるようにするには、リアルタイムで大量のデータを遅延なく欠損させずに流し込む安価なストリーミング技術とそれを分散させる仕組みが必要になる。

さらにストリーミングされた大量のデータをリアルタイムで集計、分析することができる検索エンジン向け分散フレームワーク技術などを使うことになるだろう。まさに「理系の人、頑張れ」である。

一方、情報というコンテンツを制作する上で必要な「カスタマージャーニー」を考える時は、どんな具体的なイメージを持ってシナリオを策定できるかという「想像力」とそれをまとめる「編集力」が不可欠になる。カスタマージャーニーとは消費者がどのように商品などに関心を持ち、購入などに至るかを旅にたとえた表現だ。

例えば対象とするのが40代の女性であれば、具体的な印象、行動などを可視化する力や時代背景に関する分析、それらを表現する文章力など文系的な要素が必要だ。IoT時代のUXを設計するにあたっては、理系と文系的要素の融合によってイノベーションを生み出す必要がある。

[日経産業新聞2015年4月9日付]

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