春秋

2015/4/5付
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「一度破いてテープで貼った/蒼(あお)いフォトグラフ」。松田聖子さんのこの歌がテレビで毎週流れていたのは30年余り前のこと。恋人と撮った写真を破り捨てる。思い返して貼り直す。表面は「セピア色に」褪(あ)せている。今のデジタル世代にはピンと来ないかもしれない。

▼破く。燃やす。旅に携える。故郷に送る。当時の若者向けの歌には、幸せの象徴として「1枚きりの写真」がしばしば登場する。フィルムで撮り紙に焼く写真は貴重品だった。映る姿も棒のような直立不動が大半。それに比べデジカメやケータイに慣れた世代は、どんどん気軽にシャッターを切る。ポーズづくりも上手だ。

▼ただし「写真」というものの価値まで軽くなったわけではないらしい。若者の行動を研究する伊藤忠ファッションシステムの中村ゆいさんが、20歳前後の人たちに「あなたにとって幸せとは?」と聞いてみた。すると、大勢の友人と一緒に撮った写真を大量の枚数、見せられたという。映る顔ぶれは写真ごとに違っていた。

▼モノや地位よりも仲間の数が幸せであり、写真はその証拠なのだそうだ。画面の中の笑顔が心の支えになるときもあろう。この季節、進学に就職、転勤と、慣れない環境や新しい人間関係に身を置く方も多い。古い写真を見る。「今ごろきっと、あいつも頑張っているはず」。そう自らを励まし、明日に目を向けてほしい。

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