永い言い訳 西川美和著
妻を失った男の物語

何かを失った人間が徐々に再生していくという物語は最近少なくない。こういう物語が成立するためには、何かを失うことで深く傷つく、ということが前提になる。傷を負った人間が立ち直るドラマが読者の胸を打つのだ。
ところが本書が異色なのは、主人公の幸夫が傷ついていないことだ。妻の夏子がスキーバスの事故で亡くなったとき、幸夫は編集者の愛人を家に連れ込んでいる。ちなみに幸夫の職業は作家だ。葬儀の一週間後にも同じことをするし、昔の同級生から電話がくるとそのセクシーな声によからぬことを妄想する。
この行動を見るかぎり妻の死を哀(かな)しんでいる男とは思えない。そもそもこの男、夏子の友人に会おうともしなかったように自分勝手な男だ。冷酷で、ずるいところがある。こういう男が妻の死後にどういう日々を送るのか。それを描くのが本書だが、いやはや、ホントにうまい。
この先の展開を全部紹介したいところだが、そうもいかないので、そういう男の身体の奥深くから哀しみがこみ上げてくるまでを描いている、と書くにとどめておく。ラストが圧巻だ。
★★★★★
(文芸評論家 北上次郎)
[日本経済新聞夕刊2015年4月1日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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