春秋

2015/3/31付
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世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば。山上憶良の歌には今でも胸にすっと染み入るものが多いが、これもそんな佳作の一つだろう。あえて訳せば、この世はつらいところだけど飛び去ることはできない、鳥じゃないから、といったところか。

▼およそ1300年の後に中島みゆきさんが紡ぎだした歌と、深いところで通じているように感じる。~人はむかしむかし鳥だったのかもしれないね~詩人たちにとって鳥のように空を飛ぶことは、かなわない思いや見果てぬ夢の象徴になってきた。だからこそ、自在に天空を舞う姿へのあこがれを美しい言葉で表してきた。

▼一方で、実際に空を飛ぼうと苦闘した人たちもたくさんいたことを、歴史は伝えている。現代であれば科学者や技術者と呼ばれるような能力と、冒険家と呼ばれるような資質を兼ね備えた先人たち。そして1903年、ライト兄弟によって人が空を行き交う時代は切り開かれた。もちろん、鳥の優雅さにはほど遠いけれど。

▼ドイツの格安航空会社の旅客機が墜落した事故は、副操縦士が故意に引き起こしたとの見方が強まっている。病気のせいで操縦士の資格を失うことを心配していた、とも伝えられる。飛び続けたい思いが強すぎて青年は闇にのみ込まれたのだろうか。夢は見果てぬ夢だからこそ美しい。そんな詩人の魂があったら、と思う。

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