オムニでつかむ訪日客 「買いこぼし」ECが受け皿
(村山らむね)
東京・銀座に増える中国人観光客。背格好や肌の色だけでなく、ファッションも明確な違いがなくなって違和感なく銀座に溶け込んでいるが、驚くのが百貨店などでの買い方だ。量が圧倒的に多い。円安が点火した"爆買い"ロケットは、特に昨年の免税対象の拡大と手続きの簡素化で本格軌道に乗ったようだ。

スーツケースを日本で買い足し、帰国する便では超過料金を払ってでも持ち帰ろうとする中国人旅行者も多いらしい。特に炊飯器、温水洗浄便座、魔法瓶、セラミック包丁は「四種の神器」だ。他の人気商品もかさばるものが多く、持ち切れないため購入を諦める旅行者も増えているという。
この状況を「何とかできないか」と、東京・御徒町に本店を置くディスカウントストア、多慶屋(東京・台東)がとった施策が面白い。同社は今まで国内向けでもウェブに力を入れていなかったが、年間43万人を超える外国人客の買いこぼしの受け皿として2月、外国人向けオンラインショップを開設したのだ。
ヤフーショッピングに店舗が無料で開設できることに着目。これに出店する企業向けに転送コム(東京・品川)が提供する代理購入サービス「Buyee(バイイー)」を活用し、買い物に関連する情報などを中国語に自動翻訳。カスタマー・サービスも転送コムに委託して、ハイスピードかつ低コストでEC(電子商取引)を導入した。
店頭ではオンラインショップへ誘導するQRコード付きチラシを配布。例えば、中国人観光客は帰国してもBuyeeのサービスで、中国語による説明付きで多慶屋の商品を注文できる。転送コムは配送サービスも得意としており世界84カ国・地域へ配送可能だ。
今年の春節(中国の旧正月)に間に合うように2月17日にサービスを始めた。店舗にある商品数約19万点のうちオンラインショップへの出品は約1万点で、外国人が好む商品に絞った。開設後1カ月余りだが、出足は堅調のようだ。
昨年から「越境EC(電子商取引)」という言葉を聞く機会がとても増えた。国を越えてオンラインショッピングを楽しむ人が拡大したためだ。筆者はもともと海外通販の愛好者で、20年前から嫁入り道具などを海外から購入するなど越境ECをしていた。だが日本では海外から買う人は多いのに、海外に売る人は非常に少ない。これが以前から気になっていた。

しかし人口減少で内需が縮小に向かい、円安にもなったためか、今まで越境ECを避けていたような中小のショップも関心を示すようになった。都内での越境EC関連のセミナーはどれも大盛況だ。筆者も複数のセミナーに登壇しているが、回を追うごとに反応が良くなっていく。
国を上げてのインバウンド観光への積極的な取り組みも生かすべきだ。「買い物が楽しくて食べ物がおいしい」という日本の印象を、訪日時の爆買い消費だけにとどめておくのはもったいない。「日本に来て買って、帰っても買って、また来たくなる」という継続的な無限連鎖を作っていくべきだろう。
多慶屋の「インバウンド観光(実店舗)×越境EC(オンライン)」の取り組みは、外国人向けオムニチャネルの実例としてお手本になる。店舗で配るチラシはささやかな取り組みだが、大きな可能性を秘めている。
(通販コンサルタント)
〔日経MJ2015年3月27日付〕