CO2の地下貯留、万一漏れ出たら 実験で検証
編集委員 安藤淳
温暖化ガスの排出を減らすには発電所や工場から出る二酸化炭素(CO2)の回収・貯留(CCS)が不可欠とされる。地下深くに閉じ込めたCO2が万が一、漏れ出たらどうなるか。実際に地層中に漏出させ、その広がり方や影響を見る国際プロジェクトの結果がまとまった。コンピューターで漏出を再現する数値実験と合わせ、万全の対策づくりと安全性確保に生かす。

英国スコットランドの保養地に近いアードマックニッシュ湾で、海底下約11メートルからCO2を放出する実験に日英の研究者が取り組んだ。「CO2地層貯留が生態系に起こしうる影響の定量化と監視」を意味する英語の略称から「QICS」計画と呼ばれる。
英政府系機関が2010年から4年間に200万ポンド(約3億7000万円)を投じ、プリマス海洋研究所や地質調査所、サウサンプトン大学などが実行した。日本からは東京大学や地球環境産業技術研究機構(RITE)、電力中央研究所などが参加。経済産業省が11年度から3年間に1億円を拠出した。
プロジェクトでは海底下の地層内にCO2を送り込んで漏出させ、最適な測定法を検討した。海洋中のCO2の拡散も調べ、生物への影響の有無を知る手掛かりを得るのが目的だ。
陸上から計約4トンのCO2を海底下に送り込んで放出し、約1年間にわたり周辺のCO2濃度などを測った。自動測定に加えて、ダイバーによる観察や測定も試みた。
実験中は海底からCO2の気泡が上昇するのが見え、音響センサーでその流れを定量的にとらえられた。CO2が水中に溶けることで生じる酸性度の変化は場所によるばらつきが目立った。水中のCO2濃度は放出場所の真上付近の海底近くでのみ増えた。
測定データは潮の満ち引きなどによって変化する。自然変動と漏出したCO2の切り分けの難しさが浮き彫りになった。生態系への影響は漏出場所の近くで一部の微生物が減ったが、3週間以内に元の状態に戻った。
実際の漏出量はもっと多くなって、影響も増す可能性があるが、範囲は限られるだろうとしている。
RITEは水中カメラで、魚類やヒトデ類など大型生物の行動がCO2によってどう変わるかなどを調べたが影響はなかったという。東大の佐藤徹教授は海洋中のCO2の動きに関するコンピューター計算を担当した。
CO2は温度、圧力ともに高い地下深くでは気体と液体の中間的な超臨界の状態になる。漏出して上昇すると液体、気体へと変わる。佐藤教授らはこれまで鹿児島湾や沖縄近海の火山性CO2のデータなども参考に、CO2の拡散を計算するモデルを開発してきた。
RITEも地層の特徴やCO2貯留量のデータを入れ、断層が動いた場合にCO2がどのように上昇するか、および海中でどう広がるかを再現するモデルを作っている。環境省と経産省は日本のCCS適地調査を進めており、計算モデルは候補地の検討にも役立つ。
日本の計算モデルへの国際的な評価は高く、英米などの研究機関も注目する。プリマス海洋研のジェリー・ブラックフォード海洋システムモデル担当は計算と実験の両方を活用し、CO2の測定と影響評価に関する各国共通の「物差し」を作るよう提案する。
佐藤教授は「日本でも漏出実験をすべきだ」と環境省などに働きかけており、「将来、検討課題になるだろう」(同省低炭素社会推進室)。ブラックフォード氏によると、英国では事前に実験地周辺の住民に内容を詳しく説明し時間をかけて了解を取り付けた。一部で見られた反対運動は収まったという。住民の理解を得るプロセスを経験することも将来のCCSの実用化に役立ちそうだ。
[日経産業新聞2015年3月14日付]