2019年2月16日(土)

春秋

2015/2/20付
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将棋のプロ棋士の給与明細を見たことがある。勝負師と「勤め人の成績表」の取り合わせが奇妙だったが、もっと奇妙なのは中身で、こまごまとした手当や資格の類いが複雑きわまりない。話のタネにと見せてくれた当の棋士が自分の給与の仕組みを分かっていなかった。

▼その生みの親が日本将棋連盟を運営する要職に長くあった丸田祐三九段である。実力主義を基本にしながら、年功や急減緩和の味をまぶした給与体系を完全に理解していたのは、ほかに一人しかいなかったと伝わる。本業の将棋でも歩の使い手として知られる実力者だったが、升田、大山と時代が重なったのが不運だった。

▼給与に限らない。知恵者で、将棋界の仕組みはなんでも丸田さんに聞かないと分からないという時代が戦後から昭和の終わりにかけて続いた。筋を通し、仲間にこびず、口が堅い――。棋界を代表する文章家だった河口俊彦八段は丸田さんをこう評し、続けた。「これほどの名番頭は他の世界にもいないのではなかろうか」

▼95歳の丸田さんが17日に没し、1月末には78歳の河口さんの訃報があった。先年の公益法人改革で連盟が支払う給与の体系は分かりやすく変わったという。どの世界にも、王道を行く人がつくる歴史と、もう一つ、個性が刻む豊かな物語がある。河口さんと丸田さん。古い将棋好きは懐かしい個性を二つ、相次いで失った。

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