1913 20世紀の夏の季節 フローリアン・イリエス著 人々の日々の断片で織る歴史

2015/2/18付
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一九一三年は現代史の大きな区切りである。この年に、十九世紀ははっきりと終わったといえるだろう。一九〇〇年にカチッと終わったわけでなく、一九一三年まで尾を引いていたのだ。十九世紀末から一九一三年までを〈ベルエポック〉つまり古きよき時代といっている。この本は〈ベルエポック〉の最後の年がどのようなものであったかを語ろうとしている。

(山口裕之訳、河出書房新社・4200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(山口裕之訳、河出書房新社・4200円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

この年に、この本にも出てくるように、マルセル・プルーストが『失われた時を求めて』の最初の巻を出した。古きよき年が過ぎ去っていく。そのことを限りなく惜しんでいるのだ。

〈一九一三年〉を描くために、著者は一つの仕掛けを考えている。この時代に生きたおびただしい人々の日々の断片を同時代的に並べて、時の織物を織っていくのだ。一月には若い日のスターリンとヒトラーがシェーンブルン宮殿ですれちがったといった思いがけない同時代性が登場する。またそれまで別々に語られてきた歴史の断片を並べることで思いがけない意味を想像させたりする。そのような時代のアクロバットこそ、この本の面白さなのである。

登場人物はルイ・アームストロング、ピカソ、アインシュタインなど多彩だが、ドイツの著者なので、カフカやトーマス・マン、そしてキルヒナーやココシュカなど、ドイツ文学、ドイツ表現主義美術などに重点が置かれている。アメリカも出てくるが、やはりヨーロッパの〈ベルエポック〉が中心である。

人物の描き方は、ホモセクシャルやスキャンダルなど、ふつうの伝記では触れない裏側をできるだけとりあげ、読者の興味をそそるところはなかなかにくい書き手である。

私などには大好きな時代なのでとても面白いのだが、これだけ多くの登場人物をその断片から読んでいくのは、むずかしい。それぞれもっと知りたいという刺激を与えてくれる本である。

私は昨年『一九一四年』(平凡社新書)という本を書いた。その時、この本の英語版も参考にした。そして百年前の時代がなんだかとても今に近いことにおどろいた。

もしかしたら、このような、おびただしい断片を同時代的に並べて、歴史相関図を識(し)るというやり方は、インターネットの時代を映しているともいえるかもしれない。それぞれの断片はネットで検索しながら読んでいけるのだろう。とすれば、現代的な方法による新しい歴史書の一つである。

(著述家 海野 弘)

[日本経済新聞朝刊2015年2月15日付]

1913: 20世紀の夏の季節

著者:フローリアン イリエス
出版:河出書房新社
価格:4,536円(税込み)

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