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春秋

ジャーナリストの後藤健二さんは、ちょうど1年ほど前にもシリアで身柄を拘束されたことがある。世界遺産を撮影していたところを反政府軍に捕まり、連絡が途絶えた。安全圏に残った同僚は気が気でなかったが、数日後に「出てきました」と元気なメールが届いた。

▼私たちは「赤」に行く許可が出ないので、頼みます。ではこの「黄」の地点で合流しましょう――。テレビ局では危険度で色分けした地図を広げ、こんな会話を交わすのが常だった。死への恐怖と報道への情熱。行く者の誇りと、行かない者の安堵。そして負い目。フリー記者と組織人は、どちら側にも複雑な思いがある。

▼転んでもタダでは起きない。危険地帯に入るたびに、貴重な情報源となる現地の仲間を増やして戻ってきた。明るく人に好かれる人柄で、交渉力にたけていた。この人物は危ないか。あの男なら信頼できるか。人間を見分ける嗅覚と慎重さをあわせ持っている。一緒に仕事をした人が共通して語る後藤さんの人物評である。

▼その嗅覚が今回は効かなかったのか。自己責任という一言では、とても整理できない。身を賭す報道人がいて、初めて伝わる惨状がある。情報を受ける者は皆、後藤さんを送り出した側にいるはずだ。こみ上げる怒りに身を委ね、憎しみの連鎖に陥りたくない。命の尊さと平和を忘れぬ誓いを胸に、ひたすら手を合わせる。

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