2018年1月22日(月)

イスラム国 テロリストが国家をつくる時 ロレッタ・ナポリオーニ著 「国家」形態の新しさと持続性

2015/2/4付
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 今年に入って、中東の過激派「イスラム国」関連の出版が続いている。イスラム国の「正体」、「衝撃」などの副題のついたタイトルが目白押しである。本書の邦題には「テロリストが国家をつくる時」という刺激的な副題が付いている。

(村井章子訳、文芸春秋・1350円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(村井章子訳、文芸春秋・1350円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

 いわゆる中東屋ではない「対テロファイナンス専門のエコノミスト」によるイスラム国の解説である。著者のナポリオーニは、そのソーシャル・メディアの利用の巧さなどに言及して、この「国」の新しさを強調する。そしてイスラム国とは、後ろを向いているように誤解されているが、実は前を向いている最も新しい形態の国家であると論じる。指導者のバグダディの国家樹立への強い意志が、これまでのテロ組織とは異なっていると主張する。

 たとえばアルカイダはアメリカとの戦いに、そのエネルギーを傾注していた。ところがイスラム国は、シリア内戦ではアサド政権の打倒は目指さずに、他の反アサド勢力を攻撃した。支配地域を広げ国家の領土を確保するためであった。

 また、いち早く油田地帯を奪取した。経済的な自立のためであった。さらに「国民」の支持を得るために行政部門を活動させている。

 議論に違和感は覚えない。だが、逆の視点からの解説も必要ではないだろうか。つまりアサド政権が、自らの代替として国際社会に受け入れられそうな自由シリア軍への攻撃に集中しイスラム国の活動を野放しにしていたという事実である。それゆえに、シリア空軍はイスラム国の油田を爆撃しなかった。むしろシリア政府が、その石油を購入している。イスラム国の成長は、その指導者バグダディの戦略であると同時にアサド政権の作戦の反映でもあった。

 中東に通じていないだけに、その記述には地雷原を歩いているような危うさを覚える。たとえばクルド人に関する言及では、アメリカがトルコのクルド人組織であるクルディスターン労働党とペシュメルガをテロ組織に指定したとしている。前者に関しては正しいのだが、後者は違う。ペシュメルガはイラク北部のクルディスターン自治政府の軍事部門であり、同政府とアメリカは1990年代より密接な関係にあるからだ。

 結論として著者は、イスラム国の持続性を示唆し、この国家との国際社会の共存の必要性を暗示している。この議論が妥当かどうかは、すぐに現実の情勢の展開が答えてくれるだろう。

(放送大学教授 高橋 和夫)

[日本経済新聞朝刊2015年2月1日付]

イスラム国 テロリストが国家をつくる時

著者:ロレッタ ナポリオーニ, 池上 彰
出版:文藝春秋
価格:1,458円(税込み)

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