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春秋

数年前、作家・河野多恵子さんに占っていただいたことがある。生年月日を聞かれて、手のひらを見せた。しばらく考えてから、どんな運勢か告げられた。意外な気もしたので、疑問を挟んだ。すると、きっぱりと言われた。「意識していなくても、そういう星なのよ」

▼託宣が当たったかどうか。いまも分からないが、ご自身は占いを信じていた。20年近く運勢を診てもらっていた占師が、阪神大震災を発生の3年前に予言していた。瀬戸内寂聴さんに紹介された占者は、文学賞の受賞と病気による手術を的中させたそうだ。一昨日亡くなった作家は、そんな話を本紙のコラムに書いていた。

▼谷崎潤一郎の文学に深い影響を受けた。その世界を深めるように、デビュー以来、えたいの知れない人間の心を追究した。日常の中にふいに顔をのぞかせる恐怖、ゆがんだ愛情の底にある深層心理を鋭い感覚で描いた。あくなき探究に駆り立てたのは人生は基本的にいいものだと肯定する気持ち、生きる喜びだったという。

▼人間の不思議さを半世紀以上にわたり、追い続けた。占術への強い関心もその表れだったに違いない。「いかに生きるべきかという話は嫌い。人間が生きていることの面白さに興味がある」「大切なのは日常生活のディテール(細部)の妙味」。そう語り、人間への好奇心、人生を慈しむまなざしを最後まで失わなかった。

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