アジア再興 パンカジ・ミシュラ著 西欧列強に抗した知識人の努力

2015/1/14付
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昨年は第1次世界大戦開戦100周年ということで、一部の日本のマス・メディアの注目を集めたが、なぜ日本で騒ぎ立てる必要があったのか。世界史の大きな流れの中では、本書冒頭でも言及される日露戦争と、その後のアジア諸地域でのナショナリズムの勃興の方がはるかに重要なのではないか。

(園部哲訳、白水社・3400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(園部哲訳、白水社・3400円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

本書はインド出身の著述家が、帝国・植民地主義批判の観点から、20世紀初頭のアジアで活躍した3人の社会思想家、イスラム圏のアフガーニー、中国の梁啓超、英領インドのタゴールの活躍と政治思想を分析した著作である。19~20世紀の転換期、西欧列強が設定した帝国主義的国際秩序に対抗し、中東・南アジア・東アジアの諸地域独自の文化的・宗教的伝統に基づいて人種差別主義を否定する新たな地域秩序の構築を模索した、知的エリートたちの努力と苦悩が描き出されている。

アジア諸地域の連帯と協力を提唱した「汎アジア主義」の勃興・台頭に関しては、日本の岡倉天心や大川周明に関する詳細な研究があり、その点だけなら本書の魅力は弱い。本書の独自性は、世紀転換期のアジアにおいて、イスタンブール、カイロ、東京などで、留学生や亡命知識人を中心に重層的な知的交流のネットワークが形成された点を描いたことにある。

20世紀初頭の東京は、アジア中からやってきた民族主義者の拠点となり、「拡大アジア公共空間の中心地」として機能していた。日露戦争の勝利によってそれがさらに拡大された。当時の教養ある中国人にとって、日本は文明と教育の中心地となり、日本に留学した数千人もの中国留学生はやがて帰国して指導的立場についた。

いっぽう英領インドでは1901年までに、戊戌(ぼじゅつ)の変法で中国を追放された康有為が、高原避暑地ダージリンで中国政治改革の火急的要請について書く、ということがあたりまえになっていた。この時期に形成された人流のネットワークが、やがて大戦間期のアジア諸地域におけるナショナリズムの勃興を大きく支えることになった。

本書を通読することで、私たちは、現代アジア世界の経済的再興の知的起源の一端を知ることができる。いわゆる「言説分析」中心の叙述のため、現実の経済利害や、商人のネットワークが果たした役割が軽視される問題点もある。書名も原題通りでなく、著者の意図を超える可能性もあるが、現代のアジアから世界史を考え直すために、多くの題材を提供してくれる好著である。

(大阪大学教授 秋田 茂)

[日本経済新聞朝刊2015年1月11日付]

アジア再興 帝国主義に挑んだ志士たち

著者:パンカジ ミシュラ
出版:白水社
価格:3,672円(税込み)

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