春秋

2015/1/9付
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手塚治虫さんは「漫画の神さま」と呼ばれる。「鉄腕アトム」「ジャングル大帝」など膨大な作品が世の中に与えた影響は計り知れない。歴史大作の「陽だまりの樹」や「アドルフに告ぐ」など長編が得意だったが、じつは、1コマ漫画にも並々ならぬ情熱を注いでいた。

▼そこにこそ本来の皮肉や風刺の精神があると考えていた。晩年の随筆で、言論が抑えられていた戦中の作品のつまらなさを回想している。思想、言論、表現が自由な今こそ、もっと大胆奔放、奇想天外で、痛快無比な作品を書かないと損であると指摘して、万人をうならせる質の高い傑作が出現するよう期待を述べていた。

▼フランスの週刊紙の風刺画がテロの標的となった。新聞社の本社に覆面の男たちが押し入って銃を乱射、記者や著名な漫画家ら12人を殺した。イスラム過激派の関与が疑われている。預言者への風刺が許せない。侮辱への報復だという。皮肉や批判がどれほど利いていたのかは想像できないが、あまりに卑劣な凶行である。

▼欧米流は日本人には笑えないものも多い。米紙が原発事故と原爆を同一視した絵を掲載、仏紙が放射能汚染と東京五輪を関連づけた絵を掲げ国際摩擦になったこともある。風土、文化の違いもある。過激な表現は誤解も招く。節度も必要だろう。だが、銃弾による封殺は論外だ。風刺が存在できない世界は真っ暗闇である。

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