よい社会へビジネスの知恵生かせ
民が拓くニッポン
高齢化や貧困、災害、病気など世の中には多くの問題があり、そのために支援を必要としている人たちも多い。それらに対応するのはまず行政であるはずだが、財政面の制約は年々厳しくなっているうえ、効率性でも課題が残る。
ここは民間の知恵とお金の出番ではなかろうか。行政では思いもつかなかったような斬新な手法で社会的問題を解決していく道を、今こそ確立していくべきだ。
世の中に役立つ事業
道筋はすでに見えている。社会的問題の解決を目的とした事業体の活動が、各地で始まっている。「ソーシャルビジネス」「社会的企業」などと呼ばれる。NPO法人が主体となることが多い。
事業の売り上げのほか寄付や行政の補助などが社会的企業の収入だ。ビジネスだから従業員が生活していくための給料を払い設備投資もするが、大きなもうけは追わない。事業を継続させ「世の中の役に立つ」ことを誇りとする。
たとえば、認定NPO法人フローレンス(東京)は病気の子どもの保育が主な業務だ。「子どもが熱を出した」というとき従来の保育園は預かってくれなかった。途方に暮れる働く親を支援しようと2005年にサービスを始めた。業績は順調に伸びている。
1998年に制度がつくられてからNPO法人は大幅に増え、現在は5万ほどある。玉石混交で実体のないものも多いとされる。経営の透明性などを確立したうえで、これからの社会の担い手として育てていきたい。
NPO法人以外にも株式会社や公益法人などがソーシャルビジネスを担うことがある。これらも開かれた経営を確保しつつ存分に活躍してもらいたい。
これらの事業主体が活躍するため大切なのが資金の問題だ。まだ世間的に認知が進んでいない社会的企業は資金調達が難しい。金融機関はなかなか融資に応じない。なんとかして金を流していく仕組みをつくらなければならない。
こちらの面でも明るい兆しはある。一つは休眠預金の活用だ。
10年以上出し入れがない口座にある預金を休眠預金という。毎年全国で800億円以上も発生し、後に預金者から返還請求があっても500億円程度は残るといわれる。このお金を社会問題の解決のために利用しようという議員立法の動きがある。
超党派の議員連盟は今年の通常国会への法案提出を目指している。実現に向けては、預金者からの返還請求があればいつでも応じる体制の整備や、透明で公平性のある資金の分配方法の確立が求められよう。十分に議論し、国民の納得を得て推進してほしい。
「社会的インパクト投資」という手法も世界的に注目される。社会的企業などへの投資で社会問題の解決というインパクトを狙うと同時に、ある程度の収益も目指す。一昨年に英国で開いた主要8カ国(G8)首脳会議で、普及の促進が提唱された。
この手法で大きなリターンは得られないかもしれないが、「住みよい社会」という配当が得られる意義は大きい。プロの投資家だけでなく一般市民も、資産の運用に当たっては頭の片隅にこのような意識を持ちたいところだ。
地域金融機関への期待
東日本大震災後、インターネットを通して復興支援事業の資金を集める方法も注目されるようになった。寄付も含め、社会に役立つ資金の集め方についてさらに創意工夫が進むことを期待したい。
金融機関の役割も大きくなる。政府系の日本政策金融公庫は成長戦略分野としてソーシャルビジネス向けの融資制度を設けている。13年度の融資実績は額で約500億円、件数で約5000件。ともに09年度の2倍に増えた。今後さらに力を入れる方向だ。
地域社会の問題はその地域で解決していくのが一番と考えると、信用金庫など地域金融機関こそ出番といえるだろう。
名古屋市にある市民団体はこのほど地域金融機関向けに、今後の有望な融資先はNPO法人であることなどを解説した冊子「お金の地産地消白書」を発行した。このような声に応え、金融機関も積極的にソーシャルビジネスにかかわってもらいたい。
すべて行政頼みでは限界が明らかだ。よりよい社会をつくっていくため、民の力を活用したい。