六花落々 西條奈加著
藩士の探究心 行き着く先は

ここには息詰まるチャンバラもなければ、戦国武将の咆哮(ほうこう)もない。あるのは人の心の美しさである。
古河藩の下級武士、小松尚七は、「何故、雪は六花の形を成すのでしょうか」と、ありあまる探究心の持ち主故に、〈何故なに尚七〉と呼ばれている。彼は蘭学に造詣の深い藩の重臣、鷹見忠常に見い出され、一挙に藩の世継ぎ、土井利位の学問相手に推挙される。
忠常は「他人に何と言われようと、考えることをやめようとしない。それは何よりも貴いことだ」と語る。
尚七は江戸という広い世界に出て成長していくが、そのモットーは大槻玄沢から教えられた「恥を恥じるな」の一言。
そして大黒屋光太夫との出会い、シーボルト事件、大塩平八郎の乱などを通して、彼の無垢(むく)なる心は人の世の哀歓や屈託を知る。特に印象に残るのは尚七の、雪はひとりでは生きてはいけず、水のように溶けて交わることはないが、最も具合いの良い形=六花をつくる、ということばだ。すなわち六花の形は人の縁と同じ。
作中人物の思いは霏霏(ひひ)として降る雪のように私たちの心を領していく。力作である。
★★★★★
(文芸評論家 縄田一男)
[日本経済新聞夕刊2015年1月7日付]
★★★★★ これを読まなくては損をする
★★★★☆ 読みごたえたっぷり、お薦め
★★★☆☆ 読みごたえあり
★★☆☆☆ 価格の価値はあり
★☆☆☆☆ 話題作だが、ピンとこなかった
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