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イノベーション加速が成長のカギだ

民が拓くニッポン

日本経済が少子高齢化などの制約を乗り越えて、成長力を取り戻すためのカギがイノベーションの加速だ。技術の力で新たな市場を拓(ひら)くと同時に、農業など幅広い分野に新機軸を導入し、経済全般の生産性を引き上げたい。

「失われた20年」と言われる日本経済だが、高度な技術基盤は今も健在であり、国際的な評価も低くない。

「残念な国」を抜け出せ

昨年11月に来日した米ゼネラル・エレクトリックのジェフ・イメルト会長は「燃料電池車や超電導リニアなど世界初の技術を次々に生み出す国として、日本を再評価している」と述べた。

米西海岸に開発機能を集中させてきた米アップルは近く横浜に技術開発拠点を開設することを決めた。世界の数ある候補地の中から、横浜を選んだのは、部品や素材を含めた日本の分厚い産業集積を評価したため、といわれる。

問題は、こうした優れた個別の技術がありながら、それをビジネスや現実の問題解決に結びつける力が弱く、世界にインパクトを与えるイノベーションがなかなか登場しないことだ。

手持ちの技術や経営資源を生かしきれない「残念な状態」と呼んでいいかもしれない。この欠点を克服する道筋を探ってみよう。

1つ目は技術者や研究者の独りよがりを排して、現実のニーズから出発することだ。大学発ベンチャーのハイボット(東京・目黒)はインフラ点検用ロボットで世界的に注目され、米有名ベンチャーキャピタルからの出資も受けた。

同社の特徴はユーザーとの二人三脚だ。通電したまま超高圧送電線を点検するロボットは関西電力と共同開発した。国土交通省などと協力して、ダムや橋の劣化監視ロボの実用化にも取り組む。

「インフラ運営の担い手といっしょに作業することで、地に足のついた技術が生まれる」と同社の北野菜穂取締役はいう。

日本は今後成熟国家として、老朽インフラの管理や若年労働力の不足といった様々な構造問題に他国に先駆けて向き合う。イノベーションの力でこうした問題に「回答」を示すことができれば、世界への展開も十分に可能だ。

2つ目は、異質なものを混ぜ合わせる異種交配だ。組織や技術領域の垣根を越えて、人や知が自在に交流することで、イノベーションに欠かせない発想の広がりや多様性が生まれる。

名古屋大学は今世紀に入って青色発光ダイオードの赤崎勇名誉教授ら6人のノーベル賞受賞者を輩出しているが、「他大学の出身者でもとんがった人材がいれば積極的に登用した」(同大学の浜口道成総長)のがひとつの理由だ。

旧帝大の中で最後発の名大は、生え抜きの人材で教授陣を固めるのが難しかった。それが逆に幸いして、多様な才能を受け入れる開かれた風土ができあがった。

人だけではない。トヨタ自動車は自動車生産で培った「カイゼン」のノウハウを農業に持ち込もうとしている。愛知県の農業生産法人を通じた試験運用では、早くも資材費で25%、人件費で5%の経費節減効果が出たという。

ビジネスモデルを革新

NTTドコモもIT(情報技術)の農業への応用に熱心だ。こうした農業支援の仕組みがうまく商品化できれば、農産物そのものを上回る「輸出商品」に育つ可能性もある。

そして3つ目が、単なる技術革新にとどまらず、ビジネスモデルの革新を連動させることだ。

かつて日本の家電業界は家庭用VTRで世界を席巻したが、それに伴ってレンタルビデオ店という新たな商売が各国で登場し、米ハリウッドの大手映画会社も劇場興行依存型からビデオの売り上げ中心に収益構造が一変した。

日本発のイノベーションが、新産業を生み出し、周辺産業の姿を変えてしまった例である。最近の日本発の新製品や新ビジネスはこれに比べるとよほど小粒だ。意欲ある企業人はぜひビジネスモデルを塗り替えるような新技術、新機軸に挑戦してほしい。

安倍政権の掲げるアベノミクスついて、「第3の矢(成長戦略)」の迫力不足が指摘されて久しいが、一国の成長をけん引する主役は政府ではない。民間企業や個人の創意工夫や進取の気性こそがカギを握る。

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