春秋
「がおる」と「おがる」。東北でよく使うという方言を、宮城県名取市で海岸の松林をよみがえらせようと活動する人たちに聞いた。がおるはしおれる、おがるは逆に、大きく成長するという意味だ。ふたつの言葉を行ったり来たり、一喜一憂する日々がことしも続く。
▼松林まで行政の手は回らない。人々は震災の翌年、クロマツの種をまいて苗をつくることから始めた。苗は昨年春、はじめて浜辺に植林され今は寒さに耐えている。水はけや養分、防風柵の具合など少しの差で成長が違う。去年は大敵の「蔵王颪(おろし)」が少なく雨は適量だった。運にも恵まれ幼い松は予想以上に元気だという。
▼地元の「海岸林再生の会」を非政府組織が支援する植林は7年がかり。せいぜい50センチほどの松が「湿気(しけ)っぽしい潮風」から生活を守るまでには30年、50年かかる。ボランティアの力も借り、手作業を積み重ねていくしかない。雑草ひとつがときに砂が飛ぶのを防いだりする。だから、潔癖に抜けばいいわけでもないらしい。
▼震災前の忙しさに戻ったという農家がある。まだ浜辺に近づけないという人もいる。それでも、一度はばらばらで話し相手もなくなった人たちが松林再生を目指してまた集い、語らっている。震災から5年めの年が明けた。言葉の使い方が正しいかどうか分からないのだが、松も人も地域も、一層おがることを祈っている。
関連キーワード