春秋

2014/12/26付
保存
共有
印刷
その他

ヒトラーを風刺したチャップリンの映画「独裁者」が米国で公開されたのは第2次大戦のさなか、1940年10月である。そのころ、チャップリンのもとには脅迫状が次々舞い込んだ。暴動を起こす、映画館に悪臭弾を投げこむ、スクリーンを蜂の巣みたいにしてやる。

▼思いあまったチャップリンは港湾労働者組合の委員長に相談した。屈強な男たちを映画館に紛れこませ、騒ぎを鎮めてもらおうというのである。そんな話が「チャップリン自伝」(新潮文庫)にある。風刺、パロディーの生命が権力に対する毒にあること、毒はさまざまな反応を引き起こすこと、いつの時代も変わらない。

▼金正恩・北朝鮮第1書記暗殺を扱った米のコメディー映画「ザ・インタビュー」は、残念ながら「独裁者」のような傑作ではなさそうだ。が、表現の自由は名作か駄作かを選ばない。サイバーテロやハッカーの脅しに方針は二転三転したが、やっとこの映画が公開された。自由の国はなんとか面目を保ったといえるだろう。

▼決断には、映画会社の弱腰をしかるオバマ大統領の喝も効いたか。さて、チャップリンの相談にくだんの委員長は笑いながら答えた。「まずそんなことにはなるまいね。きみはきみの観客の中に、そんなやくざな連中をおさえるだけの味方をちゃんともっているはずだよ」。市民への信頼、市民の責任を言い尽くしている。

保存
共有
印刷
その他

電子版トップ



[PR]