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春秋

江戸時代の大奥をめぐる出来事のひとつに、絵島事件がある。正徳年間というから18世紀初め、将軍家継の生母に仕えていた絵島は門限に遅れたため歌舞伎役者の生島新五郎との仲を疑われ、過酷な取り調べを受けた。このときの拷問が「うつつ責め」なるものだった。

▼のべつ幕なし尋問を浴びせかけ、夜も昼もいっさい眠らせない。古くからある自白強要の手口だが、絵島が受けた責め苦はひときわ激しかったという。そんな前近代の物語と変わりのない所業が、こともあろうに現代の米国で繰り広げられていた。ブッシュ前政権下で、中央情報局(CIA)がテロ容疑者に働いた狼藉(ろうぜき)だ。

▼顔に大量の水を注ぐ。氷風呂に漬ける。真っ暗な独房に入れて大音響を流す。立たせたまま180時間眠らせぬ、究極の「うつつ責め」もあった。上院特別委員会が公表した報告書はおぞましいの一言だ。こういう文書の公表は新たなテロを招くとの声もあるが、秘匿しつづけるにはあまりにも重い過ちだったに違いない。

▼これほどの拷問もしかし、容疑者から情報を引き出すのに効果はなかったという。人はしばしば苦痛に耐え、あるいは苦痛のあまり虚偽を語るのだ。かの絵島事件では、睡眠を断たれても絵島は頑として否認、生島のほうは石抱きを強いられてウソの自白をしたとされる。古今東西、拷問は真実に迫れず「事件」をつくる。

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