2018年11月19日(月)

経済行動と宗教 寺西重郎著 消費者の「顔」見続けた日本の成長

2014/12/8付
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多くの読者がこの壮大な知的激闘に圧倒されるに違いない。本書は、著者が『日本の経済発展と金融』で掲げた命題を30年の歳月を経て『戦前期日本の金融システム』で証明し、「その時の解放感は忘れられない」と述べたわずか数年後に上梓(じょうし)された。経済学者が宗教を論じることを「誰かがやらねばならない作業」と言う著者は「経済行動と宗教」という「空白の領域」に挑み、「大学院時代から温めていた」構想を具体化した。

(勁草書房・3500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

(勁草書房・3500円 ※書籍の価格は税抜きで表記しています)

なぜ、日本は高度経済成長を遂げたのに「失われた20年」に陥っているのか。近代日本の経済システムは「白紙」の上に成立したのか、あるいは、西欧に類似した経路の上に成立したのか。これらの問題に答えるべく、本書は宗教と対峙し、マックス・ウェーバー、ロバート・ベラー、網野善彦等々、様々な知識人の思想と向き合いながら、日英の経済システムの対照性を明らかにする。本書もまた、斬新な仮説と綿密な省察に基づいており、読者は、鋭い歴史感覚に心を奪われるであろう。

ユーラシア大陸の「極東」「極西」の海洋国家である日本と英国。日本では「身近な他者に評価されると救済される」という「世俗的易行」の教えが鎌倉新仏教の頃から広まった結果、人々が「顔の見える」消費者のためにそれぞれの職業に専心するようになった。英国では宗教改革の結果、人々が身近な他者を排除して神のために禁欲的労働に励み、「顔の見えない」消費者に向けて大量生産するようになったと説く。日本の「需要主導型経済システム」、英国の「供給主導型経済システム」の成立である。

だからこそ、幕末に両者が邂逅(かいこう)して誕生した近代日本の経済システムは、「白紙」上にも、西欧的な経路上にもなく、高度経済成長を経験した今もなお不安定であり、「失われた20年」は真の融合に向けての変容過程である、と帰結する。

「読書とは、他人が辛苦して完遂したことを、容易に摂取して自己改善する最良の方法」とソクラテスは言う。著者自身が「今までの著作の中で一番大変だった」と語る本書を読了した暁には、新たな自分を感じるに違いない。東西冷戦の終焉(しゅうえん)以降、「世界は同質的国々から成り、各国の経済成長経路は同一になる」という一元的世界観が支配的となり、経済学も新古典派経済学に一元化しつつある中、地域固有の在来的経済成長に注目し、多元的思考を提唱し続けている著者の情熱が伝わる一冊である。

(慶応大学教授 藤田 康範)

[日本経済新聞朝刊2014年12月7日付]

経済行動と宗教: 日本経済システムの誕生

著者:寺西 重郎
出版:勁草書房
価格:3,780円(税込み)

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