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ブランド論 デービッド・アーカー著

確立のためのヒトと組織を洞察

本書はアーカー教授の20年に及ぶ著作のエッセンスをまとめたブランド・マネジメントのガイドブック。アーカー氏は現代マーケティングにおいて研究者と実務家の両方に大きな影響を与えた巨人である。マーケティングの立場から広範かつ先進的な研究論文と実務的な著作を並行して発表し、影響を与え続けた人物はほかにいない。本書は著者の数多くのブランド論をコンパクトに鳥瞰(ちょうかん)でき、最新の理論や事例を盛り込んだ優れた経営書になっている。

アーカー教授のブランド論における最大の貢献とは、ブランド・エクィティ(資産)という考えを体系化し、ブランドそれ自体のマネジメントを可能にした点である。ブランドは無形資産であり「仮象」である。しかしブランドを「モノ」のように扱うことによって企業は多くの成果を手にできるのだ。

ブランドをモノのように扱うために、アーカー氏はさまざまな管理ツールとしての諸概念を考案し、定式化する。例えば、ブランド・ビジョン、ブランド・パーソナリティ、ディスクリプターなど。ブランド・ビジョンとは「ブランドにこうなってほしいと強く願うイメージ」のことだ。ブランドを確立する基礎には、経営者は「自分の企業はこうありたい」という構想、あるいは実存的な決断がなければならないのだ。

アーカー氏の卓見はこれだけにとどまらない。彼がつとに強調してきたのはブランド管理におけるヒトの管理の問題である。例えば、いかにして組織の「サイロ」、つまり壁で仕切られた部門ごとのエゴを突破してブランドを管理できる体制をつくりあげるか。また、ブランドを破壊してしまうのは往々にしてブランド管理者自身である。「変更バイアス」つまりブランドの一貫性を無視して変化を求めてしまう傾向があるからだ。

本書が優れているのはこのようなヒトと組織のありようについて、アーカー氏の洞察があちこちにちりばめられている点だ。著者はもともと統計モデルをベースとしたマーケティング研究者だったが、実務界と緊密な関係を保ってきたことが本書を理論書としてだけでなく、実務家向けの書として稀有(けう)な成果をもたらした。豊富な事例が盛り込まれている点、特に日本の広告会社の顧問を務めた経験から日本企業の事例が多い点にも注目したい。

阿久津氏というアーカー氏唯一の日本人弟子という翻訳者を得て、たいへん読みやすい本に仕上がっている。

(中央大学教授 田中 洋)

[日本経済新聞朝刊2014年11月23日付]

ブランド論---無形の差別化を作る20の基本原則

著者:デービッド・アーカー
出版:ダイヤモンド社
価格:2,592円(税込み)

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