2019年4月25日(木)

春秋

2014/11/19付
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古い映画を見ていると、思わぬ俳優が思わぬ役で出てくる。高倉健さんなどその典型で、若いころは明るく爽やかなサラリーマンだったり、美空ひばりさんの軽いお相手だったりした。のちの「死んでもらいます」の気配はなく、しかし目の鋭さで健さんとわかるのだ。

▼あとから思えばアウトローにぴったりの面差しなのだが、東映ニューフェースで登場しただけに長い回り道をたどったわけである。世の理不尽に耐えに耐えたあげく敵陣に切り込んでいく、というストイシズムを鮮やかに体現できたのはそういう苦労のたまものだったかもしれない。あの寡黙にはさまざまな言葉があった。

▼60年に及ぶ映画人生を生き抜いた、われらの健さんが亡くなった。任侠(にんきょう)ものを離れてからは年々また新たな風格をたたえ、この人の名を知らぬ日本人はいないだろう。「駅」「居酒屋兆治」「あ・うん」「鉄道員(ぽっぽや)」……。そこに登場する孤高の男は、役を抜け出して高倉健そのものでもあったのだ。スターというほかない。

▼出演作は205本にのぼるという。日本映画の全盛期にデビューし、斜陽の時代にも気を吐き、80歳を超えても演じ続けた人が消えた喪失感はファンの胸に日増しに募ろう。スクリーンの健さんに揺さぶられ、映画館を出てもしばらくはその気分で街を歩いた――。それは昭和のいつかであったが、昨日のような気がする。

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