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春秋

大学の教壇に立った経験のある会社員や研究者が集まると、共通して話題に出るのは私語の多さだ。講演会などで内容に関心がわかなくても、勝手におしゃべりを始める大人は、まずいない。こっそり舟をこぐだけだ。学生は違う。時に遠慮なく私語が飛び交い始める。

▼昔の大学には授業中の私語はほぼなかった。その理由を教育社会学者の竹内洋氏が随筆で考察している。進学者が少数のエリートだった。勤勉や忍耐が美徳だった。それだけではないはずだと考えた竹内氏は、大正時代の「東京帝国大学法学部教授授業怠業時間一覧」という資料を見つける。当時の学生が集めたデータだ。

▼対象は高名な教授ばかり9人。休講、遅刻、早引けをすべて記録し、授業をすべき時間から引いていく。結果をみると、実質的に授業をした時間は規定の40%から60%前後。最も少ない教授はわずか37%だった。「この怠業率の高さが私語なし授業のしかけだったのでは」。竹内氏はユーモアを込めつつまじめに主張する。

▼機会が少なく、しかも短いとなれば、聴く側も真剣になる。「休講はよくない」とされ始めてから私語も増えたと竹内氏は振り返る。近年は学生の要望から出欠を重視し「公平に」成績をつける流れも広がっている。出席率は向上した。私語にも拍車がかかる。教員も学生も、進んで窮屈な方に歩んでいるようにも見える。

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