フードデリバリーアプリ利用、2強以外も急増
読み解き 今コレ!アプリ フラー執行役員カスタマーサクセスグループ長 林浩之氏
新型コロナウイルスの影響が1年半以上にわたる中、人々の食生活がニューノーマルを見出しつつある。自宅にいながら質の高い食事を楽しめるフードデリバリーアプリの飛躍的な成長がその象徴だ。

フラー(新潟市)が手がけるアプリ分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」によると、フードデリバリー系月間利用者数(MAU)上位5アプリの2021年8月の合計MAUは851万人。前年同月に比べ実に3.08倍となった(iOS・アンドロイド合算)。
月別に見ると、特に20年12月には前月比47.8%増と大きく拡大している。コロナに伴う巣ごもりが顕著となったことに加え、年末年始の在宅期間を狙ったプロモーションが奏功した形だ。
利用者が多いのは首位の「ウーバーイーツ」と2位の「出前館」だ。両アプリの合計MAUは、上位5アプリの8割を占める。積極的なプロモーション施策の実施や提携店舗の増加、クーポンなどを用いたユーザーへの利用動機の創出といった施策を多角的に推進してきた効果が顕著に出てきていると実感する。
21年8月のMAUを性年代別に見ると、10~30代・大都市圏を中心に利用を伸ばすウーバーイーツ、40代以上は地方での利用が目覚ましい出前館が首位となっているのも興味深い。
一方、この1年のMAUの増加率を見ると、20年9月に日本に参入した「foodpanda」は21年8月にはMAU4位に急成長。3位の「menu」は前年同月比7.39倍、5位の「DiDi Food」は12.74倍とやはりそれぞれ急激にユーザー規模を拡大している。去年の今ごろはフードデリバリー系アプリはウーバーイーツと出前館の2強の時代の到来かと思われた。しかし、この1年間で2強は相変わらずなものの、市場全体の底上げにより数多くのプレーヤーが登場し、実際にシェア争いも激化していることがデータからも鮮明になってきた。
コロナウイルスの影響の長期化で人々が家で過ごす時間が長くなった結果、フードデリバリーを含む自宅での食事需要は旺盛な状況が続く。自炊をサポートするレシピ系アプリのMAU上位5アプリの21年8月の合計MAUは、前年同月比53.5%増の1587万人。楽しみとしての外食が抑制され、自宅でも食事を楽しもうとした人々の行動の結果、フードデリバリーサービスの利用に帰着した。
フードデリバリー系アプリは需要拡大とともに競争環境も厳しさを増す。今後は他社サービスからユーザーを獲得するとともに、クーポン配布などの積極的なプロモーションで一時的に集まったユーザーをいかに自社アプリに定着させるかが勝負の鍵を握るだろう。幅広い提携店舗の開拓、アプリ内のユーザー体験、ユーザーを離さないための定期的なキャンペーンなど全体最適を図る総力戦が求められる。
コロナウイルスという環境要因があるとはいえ、短期間でこれほどまでに大きな成長を遂げたフードデリバリー系アプリのマーケティング施策は、そのまま他のさまざまな分野でも生かすことができるだろう。各社の次の一手に注目したい。
[日経MJ2021年9月12日付]