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官僚×YouTube、前例なしに挑む 農水省・松本純子さん

(折れないキャリア)

NIKKEI STYLE

農林水産省で2020年に日本初の官僚系ユーチューブチャンネル「BUZZ MAFF(ばずまふ)」を立ち上げた。官僚×ユーチューバーという異色の組み合わせで、霞が関の「お堅い」イメージを払拭する動画を発信。再生数80万回を超える動画も出てきた。逆境の度に貫いてきた「一生働きたい」との意志が挑戦の原動力になっている。

農業が盛んな愛媛県で生まれ育つ。食材事典を読みあさるほど食べ物好きな子どもだった。自然と食に関わる仕事に興味がわき、働くことに憧れた。だが地元で見聞きした女性像は正反対だった。近所のおばあさんは「女性は勉強しなくていいんだよ。お嫁さんになったら働かなくていいから」。同級生らも「結婚したら仕事を辞めるから地元で働く」と言う。

それでも「働きたい」との思いは変わらない。日本全国の食に携わるべく農水省の門戸をたたいた。

広報を担当する現部署に配属された19年、江藤拓農相(当時)のアイデアが発端で、「職員がユーチューバーのコンテンツを作成せよ」との指示が飛んできた。早速、他部署に動画出演を掛け合うが「業務に支障が出る」「タレントを使えば」と冷ややかな反応。前例踏襲体質ともやゆされる霞が関で、前例なきプロジェクトは困難を極めた。

 期限が迫り不安で眠れぬ夜を過ごすなか、ある体験を思い出す。大学に出向き、学生に講義をしたときのことだ。政府が伝えたい情報を台本通りに話すと居眠りが始まる。そこで野菜ソムリエの資格を取得した話など雑談に切り替えると、途端に学生らは耳を傾けた。

「同僚や若手職員の趣味や特技を深掘りする動画を作ろう」。そう決心し、20年1月に始動。「サツマイモが好きすぎる若手職員が、その魅力を専門家と語り合う動画」「省内で炊いたおいしいご飯でおにぎりを作り、大臣に食べてもらう動画」など、これまでに約650本を投稿した。ギャップが話題を呼び、今や3カ月で100人超が関わるプロジェクトに育った。

日本の農業の担い手は年々減る。身近な動画で農業の面白さを若者や女性に知ってもらうことは、食の将来のために不可欠だ。「キャリアは受け入れるものではなく、一つ一つ積み重ねるもの」。さらなる発信を目指し、働き続ける。

(聞き手は千葉大史)

[日本経済新聞朝刊2021年9月6日付]

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