領域広げる物流テック
新風シリコンバレー SOZOベンチャーズ創業者 フィル・ウィックハム氏
新型コロナの影響もあり、eコマースで様々な商品を買う機会が増えた。皆さんもアマゾンなどで注文した商品が時間通りに届くことは当たり前だと思っているのではないだろうか。しかしスムーズに見える顧客体験の裏では、今でもデータの「バケツリレー」が起こっている。商品の製造業者、物流事業者、eコマース事業者の間の情報のやり取りでは、いまだにメールやFAXが多用されていると聞く。

同時に、近年のドライバー不足、原油価格の高騰もあり、物流コストは上昇傾向にある。日本ロジスティックスシステム協会によれば、2020年の物流コストは過去20年で最高水準だったそうだ。日本企業の売り上げに占める物流コストは約5%と言われているが、このまま物流コストの上昇が続けば企業経営へのさらなる影響は避けらず、消費者への価格転嫁も起こるかもしれない。物流の効率化とコスト削減は極めて重要な経営課題と言える。
一方で物流業界はこれまでなかなかテクノロジー活用が進んでこなかった業界でもある。しかし技術の発展とともに、物流業界のデジタル化を実現する「ロジスティクス・テック」という領域が北米で拡大しつつある。大小様々なプレーヤーを一つのプラットフォームに束ね、一気通貫のソリューションを提供するスタートアップが特に注目を集めている。
データサイエンティストではなく、物流業界を熟知しているベテラン人材が「ロジスティクス・テック」をけん引しているのもユニークな点だ。
プロジェクト44社はこういった流れを体現するスタートアップの一つである。アメリカ最大の物流拠点の一つであるシカゴ発の企業で、荷主および物流企業向けに、クラウドベースの物流可視化プラットフォームを提供している。
700を超える電子運行記録装置(ELD)やテレマティクスツールと連携しており、現時点でアメリカの850万台を超えるトラックの位置情報や走行データを取得している。
この仕組みを通じ、物流、荷主などの様々な企業が同じ切り口や粒度で荷物の位置情報、到着見込みなどをリアルタイムに把握できる。アマゾン、ペプシコ、ネスレ、DHLなどもプロジェクト44の重要顧客の一つで、ヤマト運輸も深い関係を持っている。
創業者のジェット・マッキャンドレス氏は物流業界の酸いも甘いもかみ分けるベテラン人材だ。カンザス州に本社をおく物流企業でキャリアをスタートし、営業部門での要職を務め、最後にはウォルマート向けのサービス責任者を務めた。
その後複数の物流企業で要職を経験し、自身で物流業界向けコンサルティング会社を創業した後、プロジェクト44を創業した。
SOZOベンチャーズではプロジェクト44に出資し、チーム一丸で彼らの国際展開を支援している。日本でのサービス展開準備も進んでおり、プロジェクト44が日本の物流業に大きく貢献する日も近いと考えている。
[日経産業新聞2021年8月31日付]
