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東京五輪が示唆したDXの重要性 デジタル化だけでは成功せず

奔流eビジネス (D4DR社長 藤元健太郎氏)

NIKKEI MJ

あっという間に東京五輪も終わり、まもなくパラリンピックがスタートする。様々な悲喜こもごもを生んだ五輪だったが、中でも金メダル5個と躍進した男子柔道の勝利の背景にはデジタルトランスフォーメーション(DX)が存在し、多くの企業にとって重要な課題であるDX推進に向けて示唆になることをいくつも感じさせられた。

綿密なデータ分析が柔道日本代表を支えた

男子柔道はロンドン五輪では金メダルをひとつも取れないという惨敗を喫した。そして立て直しを図るために、新しく代表監督に就任した井上康生監督のもと様々な改革に取り組んだ。中でもDXと呼べるものが徹底したデータ活用だろう。

強靱(きょうじん)な精神力の鍛錬と練習量が勝利へのKPIと位置づけられていた日本柔道では詳細なデータは皆無に近かった。そこでデータを蓄積するため柔道連盟の中に科学研究部を立ち上げ、GOJIRAというシステムを開発した。

複数のカメラで試合を撮影し、その映像を見ながら複数の作業者が技とその時にどちらの手で道着のどこを持ってどの方向に技をかけたのかを全部タグ付けし、試合開始から何分くらいでどんな技を出す傾向があるかなどもデータ化した。コーチや選手は自分含めた4000人以上の選手のデータと審判の傾向などを分析することが可能になった。

その結果、対戦相手の傾向分析と試合の組み立て方が感覚ではなくデータに基づいた作戦として立てることができるようになり、今回の金メダルラッシュに貢献した。もちろんデータ分析だけで金メダルはとれるものではない。金メダルをひとつでも多く取るという明確なゴール設定、ルール改正、井上監督のリーダーシップ、井上監督を選んだ柔道連盟のマネジメントの英断も大きいだろう。

これらはDXを叫んでいる多くの企業にとって参考になるだろう。デジタル化をするだけではDXはうまくいかない。経営陣がDXの責任者に実力を持った人材を選び、リーダーシップを発揮できるよう権限を与えるか。競争のルールを少しでも有利にするために業界の商慣習や標準化などの生態系整備も重要だ。

ふじもと・けんたろう 電気通信大情報理工卒。野村総合研究所を経て99年にフロントライン・ドット・ジェーピーを設立し社長。02年から現職

これからは他の国も同様に対策してくるだろう。ラグビーやサッカー、バレーボールなどはもうデータ活用が世界で当たり前になっている。データの質や分析方法の高度化など常に努力が必要なこともDXと同じだ。

陸上や水泳はセンサーの高度化で今回テレビで観戦している人たちにも選手のスピードがリアルタイムに表示されるようになった。新競技で話題になったスケボーなどは選手たちが自分の開発した技をどんどんインスタグラムなどに投稿することで世界中でそれをまねし、競うことが楽しいカルチャーになっている。

こうした状況でコーチなど指導者が「デジタルは苦手で」などと言う余地はないし、競技団体のマネジメントの人たちがデータ活用施策の意思決定できない人であってよいわけがない。まさに同じことがあらゆるビジネスの現場で起きていると認識してもらえば、あらためてDXが重要な理由と今すぐ決断していく必要があることが理解されるだろう。パリに向けてスポーツの現場ではさらなるイノベーションがもうスタートしているのだ。

[日経MJ2021年8月20日付]

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