アジフライの「聖地」長崎・松浦 年間通じてネタ新鮮

アジの水揚げ量日本一を誇る長崎県松浦市が、2019年4月に「アジフライの聖地」を宣言した。対馬海峡や五島列島沖の豊かな漁場に近い港に一年を通じてコンスタントに新鮮なアジが入ってくる。刺し身でおいしいアジを揚げることで最高の味覚を引き出し、観光客をもてなす。
「宣言」と同時に、約30の飲食店や旅館が「松浦アジフライ憲章」を制定。おいしさの追求やおもてなしの心を大切にするといった目標と並んで「ノンフローズン、またはワンフローズンで提供します」という項目が入っている。

ノンフローズンとは、近海アジを一度も凍らせずにさばき、パン粉をつけて揚げる調理法。ワンフローズンは、パン粉をつけてから1度冷凍して店で凍ったのをそのまま揚げる。福岡市街から車で約1時間30分の「道の駅松浦海のふるさと館」ではワンフローズンをテークアウト用に販売している。
2枚入りで400円。来店客の動きを見ながら、多い日には500枚以上を揚げる。「調理前にいったん寝かせる格好になるので味にコクが出る。ワンフローズンなら荒天で水揚げがない日でも、形のそろった商品を提供できます」と上田知明支配人は話す。

生きのいい釣りアジにこだわるのが、港の船着き場に面した松川屋旅館だ。宿泊予約時に申し込みを受けて、市内の鮮魚店から仕入れる。「アジの大きさ次第で2尾に増やします」と女将の川崎和子さん。
熱々のフライは肉厚でジューシー。夕食のアジフライ御膳は、地魚の刺し身や地元料理の鯨のベーコンなども並ぶ豪華版だ。
来店客が増えてきたのが、魚市場の建物内にある食堂「大漁レストラン旬(とき)」。市場の再整備に合わせて18年に開業した。人気メニューは、松浦のブランド魚「旬あじ」をフライと刺し身のダブルで味わえる定食だ。「旬あじ」は4月から8月に取れた100グラム以上のマアジを指す。

種専門店の松尾農園がアンテナショップとして開いている「Matsuo Nouen+Coffee」は、アジフライのサンドイッチを提供している。ライ麦を使ったバンズを、アジフライに合うようにサクサクの状態で使用。「ランチタイムが終わった時間に松浦に立ち寄る観光客が、テークアウトしてくれます」と経営者の松尾秀平さん。オリジナルのオーロラソースは同店こだわりのコーヒーにもよく合う。アジフライの新しい味覚と出合える、地元カフェの逸品だ。
水産卸の西日本魚市(長崎県松浦市)がまとめた全国漁港のマアジ水揚げ数量ランキングによると、松浦(長崎県松浦市)は2020年の水揚げ数量が1万7431トンで1位。2位が長崎(長崎市)、3位が境港(鳥取県境港市)と続く。
市内では松浦駅前や道の駅など5カ所に石造りの「アジフライモニュメント」が設置されている。松浦の沿岸部を通る松浦鉄道(長崎県佐世保市)はつり革を食品サンプル風のアジフライで飾った、アジフライ仕様の車両を走らせている。
(長崎支局長 若杉敏也)
[日本経済新聞夕刊2021年8月19日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。