/

給与の社会的インパクト算出 金額を可視化、ESGで貢献

Earth新潮流 日経ESG編集部 半沢智

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

企業がESG(環境・社会・企業統治)の見えない価値を定量的に示す取り組みを進めている。エーザイは従業員に支払う給与がどれだけ社会に役立っているかを示す「従業員インパクト会計」を実践し、その結果を公表した。

従業員インパクト会計は米ハーバード・ビジネス・スクールの「インパクト加重会計イニシアチブ(IWAI)」が提唱する会計手法だ。同イニシアチブを主導するジョージ・セラフェイム教授とエーザイの柳良平最高財務責任者(CFO)が算出手法を日本版にアレンジし、IWAIにおける日本企業初の実践例となった。

給与の「質」を把握

2019年末時点のエーザイ単体の給与総額は358億円だ。従業員インパクト会計ではここから社会的なインパクトに注目し、金額を加減していく。

まず注目するのが従業員へのインパクトだ。「賃金の質」と「従業員の機会」の2つを考慮する。

賃金の質とは従業員の士気向上につながる給与額のことだ。米ハーバード・ビジネス・スクールがエーザイの給与支給額と従業員満足度の関係を調査した結果、エーザイ従業員の給与満足度の最高額は1190万円であることが分かった。つまり、この水準を超えて支給した分は、従業員の満足度向上につながらない。この分を減額した金額を、従業員の満足度や士気の向上につながる良質な賃金と見なす。結果、良質と見なせる給与額は343億円だった。

従業員の機会については、女性従業員の昇進機会が奪われていると仮定し、その分の金額を減らす。エーザイの女性従業員の比率は23%だ。一方、女性管理職比率は約10%にとどまっており、この差の13%分だけ昇進機会が奪われていると考える。これを営業、研究開発、生産、管理といった部門ごとに算出する。減額分は7億円となった。

地域社会へのインパクトにも注目する。こちらは「ダイバーシティ」と「地域社会への貢献」を考慮する。

ダイバーシティは日本における女性雇用への貢献度のことだ。日本の女性人口比率は51%。エーザイ社員の男女比率をこの51%にするには、909人の女性社員を雇用する必要がある。この909人を新規雇用したと仮定すると、78億円の人件費が必要となる。この78億円を負のインパクトとして減額する。

地域社会への貢献はエーザイ従業員への雇用が地域社会につくり出した正のインパクトだ。「都道府県別の失業率」に「エーザイ社員の人数」と「エーザイの平均年収から都道府県別の最低賃金を引いた額」を掛け合わせ、その都道府県にもたらしたインパクトを算出する。エーザイの雇用が地域社会にもたらしたインパクトは11億円だった。

以上の結果、社会的インパクトの額は269億円となった。エーザイの給与総額358億円の75%にあたり、これが「人材投資効率」といえる。また、このインパクトの269億円は、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)の44%に相当する。つまり、ESGを考慮した利益は通常の利益を44%押し上げる効果をもたらすと考えられる。

労使交渉が変わった

エーザイはこの従業員インパクト会計の結果を、投資家や従業員との対話に活用し、企業価値や従業員の士気向上に役立てている。

株主、従業員、地域社会といったステークホルダーを代表しているのが社外取締役だ。そこで3月、エーザイの社外取締役7人に向けたESG説明会でこの算定結果を報告した。柳CFOは「具体的な数値を示したことで従来見えなかった価値が定量化され、人材投資の重要性や女性活躍など、ESGの推進に理解が得られた」と語る。

労働組合との労使交渉にも役立てている。5月に実施した労組向けの説明会でもこの結果を報告した。人材投資効率75%という数値はハーバード・ビジネス・スクールが試算した米国優良企業と比べても高い。そのため、従業員の士気向上につながっているとみている。給与を「上げよ」「下げよ」という2項対立に陥るのではなく、給与の質を高めるにはどうすればいいかという議論になっていく。

人材投資の後ろ盾にも

給与の従業員インパクトは、ダイバーシティや女性活躍の実態を踏まえている。そのため、女性活躍の取り組み効果を把握する材料にもなる。エーザイは人事部門が女性の活躍を推進する上での根拠としても活用していく。

6月、エーザイが米バイオジェンと共同開発したアルツハイマー型認知症治療薬「アデュカヌマブ」について、米食品医薬品局(FDA)が新薬承認し、普及の期待が高まっている。画期的な新薬を生み出し、製品化までこぎ着けるには、長期的な人材投資が鍵となる。柳CFOは「新薬を生み出すためには、何より人材への投資が欠かせない。人的資本への投資効果を定量的に把握する必要性がますます高まる」と語る。

[日経産業新聞2021年8月13日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

日経産業新聞をPC・スマホで!

スタートアップに関する連載や、業種別の最新動向をまとめ読みできる「日経産業新聞」が、PC・スマホ・タブレット全てのデバイスから閲覧できます。直近30日分の紙面イメージを閲覧でき、横書きのテキストに切り替えて読むこともできます。初めての方は、まずは1カ月無料体験!

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

企業:

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン