米クラフトウイスキーで日本市場を開拓、アジアに挑む
米KOVAL蒸留所の小嶋冬子さん(折れないキャリア)
29歳にしてウイスキーの製造から販売、本場スコットランドでのパブの楽しみ方までを体得した。留学先で出合ったウイスキーに魅了され、今は米シカゴのKOVAL(コーヴァル)蒸留所の一員としてアジア市場を開拓中だ。大組織に属することなく、自分自身で経験を積み上げた約10年の軌跡は、新しいキャリアの築き方を教えてくれる。

留学したスコットランドの大学近くにパブがあった。毎晩談笑する地元客に憧れ、店に通うようになった。ウイスキーを手にすると知り合いが増えていく。好きなギターと歌を披露すれば一気に距離が縮まる。「ウイスキーは、楽しい時間の象徴と感じた」
帰国すると"逆ホームシック"が待っていた。1年後に再訪すると、製造現場で働きたいとの思いが強くなる。
世界中の蒸留所など100カ所以上にメールした。唯一応じてくれたのがKOVAL蒸留所だ。13年前に創業し、オーガニックの原材料を使い、独自設計した蒸留器でクラフトウイスキーを製造する。KOVALは"先駆者"を意味するという。小嶋さんが採用されたのも「リスクを取って応募してきたから」だ。
日米を往復しながら蒸留に携わる。やがて日本市場の開拓を打診される。スーツケースいっぱいにボトルを詰め込み、帰国したのは15年、3年生のころだ。
ところが日本の"仕事場"はこれまでとは全く違った。当時の輸入業者と展示会に出れば「上司を呼んできて」と言われる。営業に出向いても「女の子なんだからわきまえて」と商品の説明すらさせてもらえないこともあった。容姿について発せられる言葉も多く、次第に仕事以外の悩みが大きくなった。当然、販売は伸び悩む。
思い切って女性社長のソナット・バーネカー氏に相談したら「あなたは間違っていないし、そのように扱われるべきではない」と言ってくれた。
その言葉に背中を押され、自分で顧客を作る営業に切り替えた。全国各地を回ってセミナーや試飲会を開催。すると先々で出会うバーテンダーが商品に興味を持ってくれる。
今は日本だけでなくアジア全体を担当する。次の挑戦を尋ねると「スコットランドの現場で製造を学びたい」とはっきり答えた。
(編集委員 中村奈都子)
[日本経済新聞朝刊2021年7月26日付]
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