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野生のごちそう ジーナ・レイ・ラ・サーヴァ著

その活力はどこから来るか

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ごちそうには「神話」というスパイスが欠かせない。ごちそうを食べると元気になる。なぜ活力が回復するのか、素人には不思議なことが多いものの、とにかく元気になった感覚は身体が鮮烈に覚えている。

本書は世界各地で野生の味を追い求めたアメリカの環境人類学者の記録である。この本の「神話スパイス」は「野生」である。スウェーデンの霧深い森で狩猟に加わり、ヘラジカを仕留め解体する現場に筆者は臨んだ。獲物と対峙する狩人は本能と本能の勝負という「リスク」に直面して緊張が漲(みなぎ)ると同時に、野生の生命に対する「崇拝」の念を抱いていた。対等の相手を解体する作業には節度と敬意がこもっており、倒れているヘラジカは一種の「神殿」のようなもの、屠(ほふ)りは神聖な儀式のごときものであると筆者は述べる。狩猟者たちは闘いの「リスク」を経て、生命をいただく「神話」を共有し、共同性を創出していた。

その一方で、コンゴでは密猟や違法取引など現代社会の「リスク」を犯して、ブッシュミートが都市の消費者に供給されていた。

筆者は野生の味に惹(ひ)きこまれていく身体感覚と、研究者として野生の食材が消費者に届くまでのルートを知的に分析する作業の両方を同時に経験した。自分が感じた躍動する感性と葛藤の両方を描いている。知的な分析は「野生」をめぐる現代の「神話」に肉迫し、「野生」が求められる飽食の時代の諸矛盾を鋭くえぐり出す。

野生がいつも旨(うま)いとは限らない。「野生」は味についての「リスク」もつきものである。現代都市の実験キッチンでは、舌が肥えた客が「野生」を求め、「神話スパイス」が料理人の腕の見せどころになっていた。予測不能はハンターにも料理人にも、食べる人々にも緊張感をもたらす。予想を超えて、「活力」の源になるものであってほしい。野生「リスク」への挑戦は、リスクと期待を共有する「食べる」共同体を創出する。

「野生のごちそう」の極意は、リスク「共食」共同体への参加という冒険の味わいにある。リスクに直面した緊張感が身体・精神を活性化させる。「神話」と「リスク」のバランスが「食物」を「賜物(たまもの)」に昇華させてくれるということを本書は暗示している。

《評》早稲田大学教授 武田 尚子...

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