経験者だから思う 不妊治療や支援、他の国も参考に
ダイバーシティ進化論(児玉治美)

日本で不妊治療の保険適用が拡大される。子どもがほしいのに高額な治療費がかかるために断念したり、経済的負担を強いられてきたりしたカップルにはうれしいニュースだ。短絡的な少子化対策と揶揄(やゆ)する海外メディアもあるが、日本の夫婦の5分の1近くが不妊治療を受けていることを考えれば、朗報であることは間違いない。
しかし、保険適用という経済的な支援だけでは、不妊に悩むカップルへのサポートとしては不十分だ。日本には不妊治療を受けるために仕事を休んだり、辞めたりしなければならない女性がたくさんいる。何度も治療を繰り返し、精神的にも肉体的にも大きなダメージを受ける人も多い。
私は十数年前、米国で体外受精によって双子を授かった。日本ではまずタイミング法、次に人工授精と段階を経て体外受精に進むことが多いが、私たちの場合は高齢だったこともあり最初から顕微授精、そして幸運にも1回目で成功した。
治療で通った病院は早朝から開いており、出勤前に効率的に受診することができたので仕事を休む必要もなかった。排卵誘発のための注射も毎日自宅で夫にしてもらい、不妊治療を受けていることを周りの人に知らせる必要もなかった。病院を選ぶにあたっては、成功率などの客観的データが公開されており、十分な情報に基づく選択ができた。
日本の体外受精は女性が連日通院するのが一般的で、自己注射はあまり普及していない。治療方針や費用も医療機関によりまちまちで、成功率などのデータも基準が不明確なために、どこを受診していいのか分からない人も多いという。
日本での体外受精による出生率は世界でも極端に低く、原因として晩産化や自然周期法の採用に加え、第三者の卵子提供や代理出産が認められていないこともある。海外では精子・卵子バンク、卵子凍結など妊娠・出産の多様な選択肢が普及している国も多い。このように他の国で一般化していることを日本でも積極的に検討すべきだ。保険適用だけでは、日本での不妊治療は進まないだろう。
不妊治療をしても子どもができない人たち、あるいはそもそも子どもを持ちたくないと考えている人たちの気持ちにも寄り添える社会を目指すことも重要だ。女性は子どもを産まないと社会に貢献していないかのような発言をする人もいるが言語道断である。

[日本経済新聞朝刊2021年7月19日付]
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