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戦略としての健康経営

SmartTimes 東京農工大学教授 伊藤伸氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Smart Times

従業員の健康管理を経営課題として位置付け、生産性向上を目指す「健康経営」の取り組みが広がっている。従業員が健康を崩し、疾患を抱えながらの勤務や欠勤が発生すれば生産性は低下する。健康経営は高業績の実現に向けた経営戦略の1つである。

新聞記者を経て、2001年農工大ティー・エル・オー設立とともに社長に就任(現任)。13年から東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授。大学技術移転協議会理事。

経済産業省と東京証券取引所は優れた健康経営を実践している上場企業を選定する「健康経営銘柄」を2015年から公表している。2021年には29業種48社を選定した。なかには7年連続の選定企業も存在する。健康経営の結果は、長期的に企業価値を拡大し、株価の上昇につながるとの期待がみえる。同省の調査によれば、選定企業は求人やメディア露出などでも効果を感じている。

経産省は上場企業以外でも健康経営に取り組む企業等を認定する「健康経営優良法人」制度を2017年に創設した。2021年には大規模と中小規模を合わせて9728法人が認定されている。かつて健康は個人の自己管理の問題で、企業業績とは関連しないという意識も強かったと思われるが、ワークライフバランスなどの認識の浸透もあって、健康経営の概念は受け入れられつつあるようだ。

実践活動として、健康診断や保健指導の充実や長時間労働の是正、運動や禁煙の奨励が挙げられる。健康経営を経営理念に組み入れ、組織体制を整備することも必須である。活動の評価も重要で、健康に関する多くのデータを適切に分析し、活動と成果との間に関係を見いだせるかどうかが成否を左右する。

留意すべきは身体的健康や安全衛生に関する対策ばかりでなく、精神的健康における職場の役割であろう。職場の人間関係はストレスや不安、悩みを感じる中心的な事象である。程度の差はあれ、専門職の業務にはストレスはつきものであるが、職務によって心理的な健康度は異なる。業務上の要求が多く、裁量度の低い業務だと従業員のストレスは強まる傾向がある。

筆者が研究対象としている大学で研究を支援する専門職にとっても業務ストレスは大きな課題だ。こうした専門職は、業務の多様性や業務境界の曖昧さから組織内での役割が明確に定義されず、認知も不十分な実情が指摘されている。職場において役割の範囲や責任の所在が明確でないと、ストレス要因になりやすい。

ストレスを緩和する職場の機能として真っ先に挙げられるのが同僚や上司のサポートだ。公式・非公式の両面で対話があり、サポートしあう健康的な職場文化が不可欠だ。意思決定に参加し自身の能力が生かせる機会があれば、精神的な健康の度合いは高まる。

あらゆる組織に変革の速度が求められる現代は、必然的にストレスが生じやすい。健康経営が経営戦略である以上、健康的な職場文化の形成には組織として意図した取り組みが必要だ。

[日経産業新聞2021年7月16日付]

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